リテールマーケティング ㉘
第3部 顧客満足向上実践講座編
1. 印象に残るお礼状の書き方
来店した顧客との出会いを次につなげるうえで大切なことは、お礼状を
書くことである。手紙といえば時候の挨拶から始めそうだが、今日、評価
されるのは相手のことだけを書いた文面である。
ここでは、顧客に対する販売員(自分)の印象を高め、次の来店につなげる
お礼状の書き方について述べる。
1. お礼状が再評価されている
お礼状は接客販売のシーンで印象度を高める有効なツールである。
たとえば、プレゼンが相手の目前で行う瞬間的なアピールであるのに対し、
お礼状は出会った後でも相手の心に入り込める。
誰もが、いとも簡単にメールやSNSで瞬時に相手とつながることができる
時代にあって、お礼状は書いて投函し、相手に届くまでのタイムラグがある。
しかし、その“手間暇がかかる価値”が再評価されているのである。
(1) 味のある手書きですぐに出す
インターネットが全盛を迎えるまでのお礼状は、どれも同じで失礼のない
ような文面で、個性を出さないことが重要とされていた。
しかし今日では、どれだけ個性的な一言を書き入れるかが、顧客(読み手)に
「この人(販売員)にまた会いたい」と思わせる決め手となる。
来店していただいた当日か翌日にはお礼状を書く。同じ時を共有した顧客に
すぐに出すお礼状には、文例集に載っているような時候の挨拶は不要である。
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(2) 読み手の心を掴む書き方
お礼状で顧客(読み手)の心をつかむには、来店当日の事実を1つ書き、
主語をつけて感想を書くことがポイントである。
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その際、「私は」と主語をつける。相手が思ってもいないことを書くと
喜ばれる。人は、自分の存在が他人の心を動かしたと知るとうれしく感じ、
自分が気づいていない魅力を教えてくれた人には好意を持つからである。
ただし、「押しつけの意見だ」と相手に受け取られないように気をつけな
ければならない。
2. 販売員の印象を高める3つのポイント
具体的にどのような文面にすれば、販売員の印象を高めることができるのか。
それには、次の3つのポイントを押さえることが大切である。
① 初対面でも見つけられる事実を書く
まず、相手の外見、持ち物、行動や言葉といった事実を書く。
たとえば、「雪のちらつく寒い日にご来店いただきました」と短い一文に
する。人は、自分の行動の様子を言葉で伝えられて、初めて自分の存在を
認められたと理解し、書き手(販売員)に興味を持つ。
多くの場合、「雪にもかかわらずわざわざご来店いただき、誠にありがとう
ございました」と一気にお礼まで書いてしまいがちだが、これでは当たり
前になってしまい、印象が薄くなってしまうのである。
② 相手を振り向かせる感想を伝える
①の事実に対して、どう思ったかを「私は」と主語から書き始める。
たとえば、「私は当店を選んで来店していただいたように思い、うれし
かったです」などと自分(販売員)に起こった感情の変化を書く。
そうすると、顧客に自分が大事にされているという感覚が高まり、販売員に
対する興味の度合いが増してくる。
③ 未来予告で心をわしづかみする
最後に、①と②から予想される相手の未来を予告する。
たとえば、「どんなときでも、周りの人を明るく笑顔にさせていくものと
思います」と言い切る。これにより相手を笑顔にするのである。
従来のお礼状は、最後に「また、ぜひご来店ください。販売員一同お待ち
しております」などと締めくくり、販売員や小売店側の都合や存在を
アピールしてきた。しかし、アピール合戦の度合いが増した今日では、
かえって没個性となり逆効果である。
あえて顧客(相手)のことだけで文章を終わらせることで、販売員への
興味が好印象になり、顧客の心に心地よい読後感をもたらす。
■ 没個性(ぼつこせい)
個性が無い、個性が薄い、などという意味の表現。
「没個性的」などという具合に使われる。
■ 読後感(どくごかん)
本などを読んだあとの感想。
3. 効果的なお礼状のひな型
最初に顧客(相手)の氏名と簡単な挨拶を書く。本文は、上述した①、②、
③の要領でテンポよく書く。すなわち、①の事実を短い一文で書き、
②の「私は」と主語から始まる感想、③の相手の未来予告とつなげる。
そして最後に、店舗名と販売員の名前を書く。
読み方がむずかしい名前は、フリガナをふる。お礼状を受け取った顧客が
再来店したときに、その販売員の名前を呼べないのは大きなストレスで
あり、声をかけにくくなるといったデメリットがある。
お礼状はモノではなく、言葉を贈る形がよい。誰もが忙しい日々を送って
いる時代だからこそ、顧客のことを思い出しながら手書きで書くことで、
顧客の心に残るお礼状ができ上がる。
図1-1 自分の印象度を高める心理的フロー
① 販売員(書き手) → 見た目の事実を伝える。
顧客(読み手) → 私のこと、気にしてくれていたのね。
● 販売員(書き手) → 「私は○○と感じました」
顧客(読み手) → 私の存在が相手に何か変化を与えたのね。
● 販売員(書き手) → 「未来に○○となりますね」
顧客(読み手) → 私にこんな可能性があると感じてくれたのね。
● ① 書き手(販売員)に興味を持つ → ② 興味が強くなる →
③ 書き手(販売員)に好感を抱く。
図1-2 印象度高めるお礼状の書き方(例)
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この続きは、次回に。