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リテールマーケティング  ㊼

③  安売りとディスカウンティング

 

1. 安売りは一時的特売にすぎない

 

安売りとは、一般的に特定期間に特定商品を大量に販売する「特売セール」などの

行為を意味する。しかも対象となる商品は、高級または高品質というよりも

日常生活に密着した必需品が多くを占めている。

安売りは、顧客にとっては、妥協的購買といえなくもない販売形態である。

そのため、特売を行った場合、“安かろう悪かろう”というイメージをその

小売店から払拭することはむずかしくなる。

もう1つ、安売りの重要な意味として売価設定方法がある。すなわち、

安売りには、いくら儲けたいという見込みの利益(値入額)を大きく削り

込んで、一時的に特定商品の売価を引き下げる販売行為である。

ロスリーダー(おとり商品)は、仕入原価ぎりぎりの売価設定によって安さを

実現する。薄利多売というように、安売りの対象となる商品は大量に販売

し続けなければ採算が取れない。また、採算は度外視して来店客数の増加を

目的とした安売りは、多くの小売業でいまだに頻繁に行われている。

つまり、ロスリーダーの設定によって店舗に顧客を引きつけ、粗利益を

確保できる他の商品を一緒に購入させる戦術が安売りという行為である。

 

□ 値入額(ねいれがく)

 

値入額とは、商品の売価から原価を差し引いたのことです。

商品販売時点で発生する利益が値入額です。ただし、値入額は利益の

とは同一ではありません。

値入額から経費やロスなどのを差し引いたものが利益となります。

 

2. トータル流通コストを下げるのがディスカウンティング

 

安売りに対し、ディスカウンティングとは、顧客にとって価値ある商品を

意図的に買い求めやすい価格にまで引き下げ、お買い得感や満足感を訴求

する販売政策である。つまり、お値打ち品が買い得になるため、顧客に

とって満足度は向上する。

対象となるのはあらゆる商品であるが、なかでもブランドイメージの強い

目的購買商品ほどディスカウンティングの価値を発揮する。

また、ディスカウンティングの売価設定には、安売りとは違った重要な

意味が含まれている。すなわち、ディスカウンティングとは見込みの利益を

減らして、安さをつくり出すことではない。仕入から販売までのトータル

流通コストを効率的システムの構築などによって削り込み、恒常的に多くの

価値ある商品の売価を継続的、かつ、計画的(一定基準)にコントロールする

政策である。

粗利益を削り込んで一時的な安さをつくるには、いわゆるバッタ屋のように

難品買いスポット買いを多用せざるを得ない。しかし、それでは仕入先が

不明な商品や継続的に品質を保証できないような商品を買い漁るばかりと

なり、顧客満足度を高めることはできない。季節に先がけ、計画的な早めの

仕入と、どこよりも早く売り切る仕組みがあってこそ、顧客に夢や感動を

与えるマーチャンダイジングを展開することができる。

ディスカウンティングは、このような価値の実現までも含めて考えるべきで

あろう。

 

□ スポット

スポットは、自分が好きな時に購入します。 手元にお金がある時や、

相場がしばらく低いと感じた時などに買い足していく運用方法です。

2017/12/21

 

3. いつでもあらゆる商品が安い“EDLP”をベースに

 

安売りとディスカウンティングとは、その内容は明らかに異なる。

そして、顧客満足度を高めるために必要なのは、もちろんディスカウン

ティングである。

安売りに飛びつくのは、言うまでもなくチェリーピッカー(特売のおいしい

実だけを買い漁る顧客)や浮動客(日によって特売品を売る小売店を使い

分ける顧客)であって、当の小売店の利益には結びつきにくい顧客である。

また、ディスカウンティングを支持するのは、生涯のパートナーとしての

固定客である。したがって、小売店は固定客の維持をはかるためにも適度な

ディスカウンティングによる販売政策を行うことが有効である。

ただし、日本に多く存在するディスカウントストア(DS)の意味とはまったく

違うということに注意しなければならない。DSが特定の商品をただ安く

販売する店舗形態であるのとは異なり、ディスカウンティングは顧客の

マンネリ化した価格意識を定期的に払拭し、エキサイティングな売場を

つくることが求められている。

今日の消費者は、総じて絶対的な価格志向ではなくなっている。

必要なことは、いつでもあらゆる商品が一定の安さ(EDLP:エブリデイ・

ロープライス)でなければならないことである。そのうえで適度なディス

カウンティングを行うことが重要な価格政策となる。

安売り用のロスリーダーをつくり、他の商品を販売することで帳尻を合わせ

ようとするのは顧客重視型の経営である。

 

表3-1 安売りとディスカウンティングの比較

 

「安売り」–来店促進のためのおとり商品的な販売行為で、“安かろう

悪かろう”のイメージ。

 

「ディスカウンティング」—生活向上のための価値訴求的な販売行為で、

お値打ち品のイメージ。

 

【対象商品】

● 「安売り」—特売商品(ロスリーダー)、妥協的購買商品。

 「ディスカウンティング」—価値商品(ブランドリーダー)、

  目的購買商品。

 

【価格設定】

● 「安売り」—無計画のスポット的仕入によって値入額を削り込み、

 一時的に特定商品の売価を引き下げる方法。

 

● 「ディスカウンティング」—トータル流通コストを削減(ローコスト

 マネジメント)し、恒常的に多くの商品の売価を継続的、かつ、

 計画的に調整する方法。

 

【対象顧客】

● 「安売り」—浮動客が好む販売行為であり、顧客満足度を高めるもの

 ではない。

 

● 「ディスカウンティング」—固定客に安心して来店してもらえる販売

 政策であり、顧客満足度の向上に寄与できる。

 

出所:表2-1と同じ

 

 

 

この続きは、次回に。

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