書籍「すごい物流戦略」① ニトリ
第2章 ニトリの物流戦略
・都市部へ進出する「お、ねだん以上。」ニトリ
・店舗運営、メーカー、物流、宣伝—-機能ごとに分社化
ニトリホールディングスは、2018年2月期決算で、31期連続の増収増益を
達成。2019年2月期には、さらなる成長が見込まれます。
ちなみにニトリホールディングスは、従来、商品企画から製造・物流・
販売までを一貫してプロデュースする「製造物流小売業」として事業を
展開してきたニトリが、2010年、消費者の生活防衛意識の高まりによって
経営環境が厳しくなるなか、個々の昨日ごとに分社化し、グループ全体
としてのスピーディな経営判断を行っていくために生まれた持ち株会社です。
現在、傘下には、販売機能を持つ店舗運営会社としてニトリ、メーカー
機能として海外での調達・生産を担うニトリファニチャー、物流会社の
ホームロジスティックス、保険代理事業のニトリファシリティなどの事業
会社があります。
各事業会社はグループ内の機能会社として、効率化と高い品質の提供を
両立させるべく事業を展開していますが、ホームロジスティックスのように、
自社の付加価値を高めるためにグループ外に対するサービス提供を事業化
しているところもあります。
・ニトリの強さの根幹「成功の5原則」
ニトリの強さを1つに、「成功の5原則」があります。
ニトリグループの社内では、「ロマン・ビジョン・意欲・執念、好奇心」が
成功の5原則として知られています。これは同社が求めている人財の
主な素養でもあります。
まず、一生涯の目標を持つこと。そうした「ロマン」と「ビジョン」が
あって初めて、仕事に対してもやる気、「意欲」や「熱意」が生まれて
きます。
そして大事なことは、その目標、「ビジョン」に到達するまではあきら
めない、ということです。
「うまくいかないのは途中であきらめるからだ」と似鳥氏はよく話されて
いますが、「成功するまではスッポンのようにくらいついていくこと」、
そういう「執念」が必要になるということです。
最後に必要なのが「好奇心」です。ところが実は、これがいちばん難しい。
なぜなら、最初から好奇心を持てない人に「好奇心を持て」と言った
ところで、簡単には好奇心を持てないからです。
好奇心を持つには、何かのきっかけが必要です。
似鳥会長の場合は、27歳のときの米国訪問でした。きっかけをつかむには、
自ら学んだり、本を読んだり、人の話を聞くことなどで見聞を広めることが
必要でしょう。仕事であったら全国を回ったり、現場に足を運んだりする
ことがいかに大事であるかがわかります。
身につけたくてもなかなか見につけられない、こうした「成功の5原則」を
習得できるようにする仕組みを、ニトリでは社員の育成制度の中に取り
入れています。
例えば、毎年、全国社員の中から約1400人という大所帯でアメリカを
訪問する「アメリカセミナー」、短期間にさまざまな職場を経験する
「教育配転制度」(配転教育)等です。
こうした教育を通じて、社員は自然と、仕事に対するモチベーションや、
働く「熱意」、「意欲」だけでなく、「好奇心」のような個々人の知的・
性格的資質に大きく左右される素養も、うまく醸成されていくのだと
思います。
・社員1人にかける教育費は、上場企業平均の5倍
次に人財育成に対する考え方です。
ニトリには入社から3年目まで勤続年数に応じて、知識教育と演習と
いった、さまざまな研修カリキュラムが整備された「ニトリ大学」と
いう制度をはじめ、さまざまな社員研修・教育の制度が整っています。
そのほかにも、4年目以降に義務教育が修了した人が受けられる外部講師を
使った「選抜型教育」といったOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング=
就業時間内での、働く現場以外での研修教育)、OJT(オン・ザ・ジョブ・
トレーニング=働く現場での先輩などからの研修教育)の空極とも言える
「教育配転制度」や、自社で200を超えるコンテンツを用意した「eラー
ニング」等のスキルアップのためのツール、そのほか「アメリカセミナー」
「社内語学能力テスト」「教育資格取得一時金制度」「教育マイレージ
制度」等、数多くの教育研修の機会が用意されています。
毎年約1400人が参加するアメリカセミナーは、ニトリのめざす「豊かな
暮らし」を実際に体感してもらうため、アメリカの実際の生活と、それを
可能にしているチェーンストア企業を視察し、同社の掲げる「ロマン」と
「ビジョン」を再確認する研修です。
ニトリがこのような社員に対する人財教育を行うのは、「世界に通用する
スペシャリスト」を育成していきたいという考えからです。
そのため、社員1人当たり年間で平均研修時間を約36.6時間もかけています。
1人あたり(パート・アルバイト含めた)の平均教育費は約26万円。
上場企業の平均の5倍にもなります。
人財に対する教育費は、企業の業績次第で経費節減に対象になりやすく、
ここ数年は縮小する企業が目立っています。ところが、業績も右肩上がりで
好調なニトリでは、ますます人財教育に時間と費用をかけているのです。
以前、私が似鳥会長に、拙著『人が育つ素敵な会社』(財界研究所)執筆の
ためにインタビューした際、人財教育・人財開発に力を惜しまない理由を
次のように話してくれました。
「わが社の会社の目的とは何か? それは社会に貢献する、世の中に役に
立つ、ということが目的なのです。それがロマンであり、志であると。
——ではそのロマンとそれを実現するためのビジョンを達成するには
何が必要か。やはり人財、人が必要になってきます。
企業は人なりと言うけれども、一番は人を育てるしかない。人によって
企業は成り立っているからです」
似鳥氏は会社を創業して間もない、27歳のときに初めて米国を訪れました。
1972年のことです。初めての米国訪問は、驚愕、感動、感激の連続だった
そうです。その体験を通して、似鳥氏はある決意を固めました。
米国と比べてあまりにも遅れた日本の暮らし・生活・住まいを何とかして
米国並みに引き上げたい。これが似鳥氏の自分の会社が目指すべき方向に
なりました。
当時の日本の生活は米国と比べて60年は遅れていたそうです。
そこで、会社のビジョンの最終目標年、計画の最終年を、そこから逆算
して60年後に設定しました。
2002年までが30年計画。折り返し点。そして60年計画の最終年である
2032年には、先述したように「3000店舗、売上高3兆円」、世界の
人々に豊かな暮らしを提案する企業へ、という目標を掲げています。
この続きは、次回に。