お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑮

田中に酷似、「西武」堤義明の経営姿勢

 

一方、かって田中がかわいがっていたある経営者がいた。

鉄道、ホテルなどを経営する「西武グループ」総師として君臨した堤義明で

ある。堤は、若い頃から田中の薫陶、影響を強く受けていた。

雑誌「財界」記者時代から堤と親交があり、後年は経営評論家として活躍を

した故針木康男が、筆者にこう話してくれたことがあった。

「堤と事業の話をすると、決して『イエス、バット—–』とは言わなかった。

常に『ノー、バット』、すなわち『いや、それは違う』と迫ってくる。

なぜ、ノー、バットから入るのかを問うたことがあるが、彼はこう言って

いた。『商売相手に調子のいいことを言っておいて、あとで部下に断らせる

ような決断の仕方は嫌いなのだ。ダメなものはダメと、最初にハッキリ

言ったほうが相手もよく分かってくれるし、後々の商売もうまくいく

ケースが多い』と。なるほど、そのうえで、前言訂正、撤回の類いも一切

なかったというのが特徴であった。こうした背景には、父・堤康次郎からの

〝帝王学〟によるものも大きかったと思われる。

堤は、こうも言ったことがあった。『親父から、ごまかし、曖昧、うそは、

一度は通じても、二度、三度は通じないと子供の頃から言われていた。

親父は部下に対しても、同じだった。仮に、相手をダマす気がなくても、

結果的にダマされたと思わせるような曖昧な態度だけは、断じて取っては

ならないと親父に教えられたことが、私の経営姿勢の根幹を成している』と」

堤康次郎は西武グループの創業者で、のちに政界入りし、衆院議長も

務めた。「剛腕」経営者として、東急グループの創業者・五島慶太と

私鉄業界の雌雄を争う存在だった。

4000年の歴史を誇る中国の経験と知恵は、「応待辞令」という言葉を

生んでいる。「応待」とは、出てくる問題、課題に果敢(かかん)に即応、

迅速に処理していくことを指している。こうした中では、指示のブレ、

前言撤回と言ったことは、なかなか入り込む余地がないのである。

また、「辞令」は、本来は今日使われているような人事異動の際などに

使われる言葉ではなく、「応待」の際の言葉の操り方を指している。

この「応待辞令」の出来いかんをもって、中国では人物の器量が判断されて

きている。せめて、指示のブレと前言撤回だけは避けたいものだ。

ジワジワと上司としての致命傷になってくる可能性を秘めている。

 

● 君臨

 

1. 主君として国家を統治すること。

2. ある分野で、強大な力を持って他を支配すること。

   「業界に君臨する大物」

 

● 薫陶(くんとう)

 

[名](スル)《香をたいて薫りを染み込ませ、土をこねて形を整えながら

陶器を作り上げる意から》徳の力で人を感化し、教育すること。

「薫陶のたまもの」

「しかし若い生徒を―するのは中々愉快なものですよ」〈野上・真知子〉

 

● 撤回

 

1. いったん提出・公示したものなどを、取り下げること。「前言を撤回する」

2. 民法上、意思表示をした者が、その効果を将来に向かって消滅させること。

 

● 根幹

 

1. 根と幹。

2. 物事の大もと。ねもと。中心となるもの。

  「民主主義が近代社会の根幹をなしている」

 

● 剛腕

 

1. 腕っぷしの強いこと。特に野球で、速球を得意とする投手などにいう。

2. 自分の考えを強引に押し通す力。「問題解決に―を振るう」

 

● 雌雄

 

1. めすとおす。「ひなの雌雄を見分ける」

2. すぐれていることと劣っていること。勝ちと負け。優劣。

     勝敗。「雌雄を争う」

 

● 果敢

 

決断力に富み、物事を思いきってするさま。「果敢な行為」「勇猛果敢」

 

● 迅速

 

物事の進みぐあいや行動などが非常に速いこと。また、そのさま。

「迅速な報道」「迅速に処理する」

 

● 器量

 

1. ある事をするのにふさわしい能力や人徳。「指導者としての器量に乏しい」

2. その人の才徳に対して世間が与える評価。面目。多く、男性についていう。「器量を上げる」

3. 顔だち。容貌 (ようぼう) 。多く、女性についていう。「器量のよい娘」

4. もののじょうず。名人。

   「笛の御 (おん) ―たるによって」〈平家・四〉

 

 

 

この続きは、次回に。

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