お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑳

● 交渉の事前調査で問われる、「数字と歴史」の掌握力

 

前項で、田中角栄は「日米繊維交渉」に先立ち通産省が調べ上げた事前

調査資料を、完璧に頭に叩き込んでいたと記した。

ために、どこを突かれても〝水漏れ〟のないやり取りが可能になった。

この交渉の例は、この事前調査の徹底が不可欠であることも教えている。

田中の事にあたる前の準備すなわち事前調査は、何事にも若い頃から

徹底していた。次のような二つの証言がある。

「マスコミからオヤジさん(田中)へのインタビュー申し込みがあると、

相手が初めて会う人の場合は、われわれ秘書は大変です。インタビュアーの

経歴、それまでの仕事内容など、資料になるものは、秘書に『すべて揃える』と

命じる。オヤジさんは、それらを熟読したうえで、さあなんでも聞いて

くれのインタビューとなる。サービス精神が旺盛なオヤジさんのことです。

つまらない質問には、適当に話を盛ってやる。結果どうあれ、出る記事は

おもしろいものになる。

オヤジさんがゴルフに手をつける前に、秘書に『やる以上はシングルを

目指す。参考になる本を3貫目くらい買ってきてくれ』と命じ、結局すべてを

読み切ったうえでゴルフを始めたという有名な話があるが、事にあたる前は

どんな些細なことでも準備万端、手を抜くということなどは一切なかった」

(田中の元秘書)「田中に、なぜあなたは事業家として成功したのかを

聞いたことがある。田中は、こう言っていた。『商談に入る前に、相手の

ことを徹底的に調べたからだ。親父は酒飲みだが、創業者として本当に

汗を流した。息子は才には欠けるが、人だけはいい。こうしたことまで

調べて、よしこれならある程度、信用できるということで、初めて交渉に

入ったものだ。相手も、そこまで知られているんじゃかなわんということか、

商談がまとまることが多かった。何事も手を抜くな、全力投球でかかれ。

これで初めて、相手に誠意が伝わる事になる』と」(元田中派担当記者)

そのうえで、こうした事前調査で最も強力な武器になるのが、田中に

言わせると「数字と歴史」ということになる。交渉が行き詰まり、こじれ

そうになったときに〝威力〟を発揮するのが、この二つの掌握力、あるいは

権力抗争に打ち勝ってきたと言っても過言ではなかったのだった。

また、この章でのちに触れる聴衆を惹きつけて止まなかった名演説「角栄節」の

特徴も、絶えず笑いに包まれるという一方で、その話の中身には「数字と

歴史」がふんだんに盛り込まれ、強力な聴衆への説得力となっていたので

ある。田中自身も、よくこう口にしていた。

「ワシの演説を、皆、楽しんで聞いてくれるが、じつは信頼感があるから

なんだ。ここでの信頼感とは何か。数字をきちんと示し、事の由来を正確に

伝えることだ。数字と歴史を語ること、これ以上の説得力はない。演説も

交渉事も同じだ」

田中は少年時代から数字が得意で、実業の道に入ってからも、仕入れ物資

など相手が算盤を弾いている間に、価格を速算してしまうのが常だった。

さすがに、相手も「アンタにはかなわん」ということで、しばしば商談

成立となることが多かったそうである。

こうした事は政界入り後も同様で、「ワシは大蔵省の資料や予算書などの

数字は、一度、目を通したらすべて頭に入ってしまう。カノジョの電話

番号を覚えるのと同じで、スッと頭に入る」と豪語していたものだった。

こうした数字を武器に、国会答弁でも野党の追及を押し返し、また予算

折衝で抵抗する官僚はグウの音も出なかったということだったのである。

 

● 完璧

 

欠点がまったくないこと。また、そのさま。「完璧を期する」「完璧な演技」

 

● 熟読

 

文章の意味をよく考えながらじっくり読むこと。「名作を熟読する」

 

● 貫目

 

(かん)は、尺貫法における質量の単位、また江戸時代以前の通貨の

単位である。 質量単位のは、1000匁に当たり、明治時代に 1 = 正確に

3.75キログラム(kg) と定義された。 これらを区別するため、質量単位の

方を貫目(かんめ、一貫分の目方の略)、通貨単位の方を文(かんもん)と

いう場合もある。 

 

● 旺盛

 

活動力が非常に盛んであること。また、そのさま。「旺盛な好奇心」

 

● 些細

 

活動力が非常に盛んであること。また、そのさま。「旺盛な好奇心」

 

● 準備万端

 

諸般の準備、あるいは準備の全て、などの意味の表現。 一般的には、

準備万端整っているさま、万全の用意ができている状態などを意味する

ものとして用いられる。

 

● 威力

 

1. 他を押さえつけ服従させる、強い力や勢い。

   「砕氷船が威力を発揮する」「威力のあるパンチ」「金の威力」

2. 法律で、人の意思を制圧するに足る有形・無形の勢力をいう。

     威力業務妨害罪・競売入札妨害罪を構成する行為など。

 

● 掌握力

 

掌握力」は、「掌握」という言葉に接尾辞の「」をつけた言葉なので、

1. 手に入れる。 支配する力 2. 物事を自分の意のままに動かせるように

するとなり、その人の持っている「・能力」を言い表す言葉になり

ます。2020/03/31

 

● 権力抗争

 

政治権力の争奪をめぐって、個人・団体・政党・階級などの間で行われる闘争。

 

● 実業

 

農業・商業・工業・水産業など、生産・販売に関わる事業。→虚業

 

● 豪語

 

いかにも自信ありげに大きなことを言うこと。また、その言葉。

「うちの店は日本一うまいと豪語する」

 

 

この続きは、次回に。

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