田中角栄「上司の心得」㊹
田中が警戒した竹下登の凄さ
一方、こうした「損失補填人事」をテコに求心力を高め、ジワジワと
自民党内の勢力拡大に成功したのが、田中と長い間、政治生活を共に
してきた竹下登であった。田中は竹下の政治的能力、人心掌握力を買い
ながら、その能力の高さから〝近親増悪〟的なものも手伝ってか、自らの
後継にはなかなかオーケーを出さなかった。
その竹下は、次のような見事な損失補填ぶりを残している。
昭和49(1974)年11月、最後の内閣改造ともなる第2次田中内閣のそれは、
わずか29日で終わった。時の官房長官はその竹下で、政権の「幕引き
官房長官」とも言われたものだった。
そのたった29日間の内閣は、じつは初入閣組が7人いた。
竹下が心したのは、「初入閣でたった29日間だけの大臣では、あまりに
かわいそうだ。オレがどこかで、必ず面倒をみてやる」ということであった。
竹下と気脈のあった政治部記者は、次のように言っていた。
「田中政権のあと、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、中曽根
康弘と5代の政権が続いたが、それらの政権の人事で、竹下は田中派幹部
として不遇だった7人の入閣を、常に頭に置いていた。
田中は進言、了解をとっては5代の内閣で閣僚としてはめ込んでいった
のだった。最後は、国土庁長官(国務大臣)だった丹羽兵助で、これは
中曽根内閣で総務長官で総務長官として押し込んだ。竹下がそうした
すべての損失補填を〝完了〟したのは、じつにそれを心してから8年後
だった。8年かけても信念を通すとは、田中が警戒する竹下の凄さを見た
思いだった」これらの〝損失補填人物〟が、中曽根のあと政権に就いた
竹下の〝応援団〟として、陰に陽に竹下政権をバックアップしたのは
言うまでもなかった。
ヘタに部下の損失補填に首を突っ込めば、周囲から雑音が出るだろうなどと
ビビッているようでは、とても部下の大きな支持を得るようなリーダーに
なれる器ではない。せめて、目をつけた有能で一所懸命やっている部下には、
このくらいのことはやってやれということである。
大物と言われる人物は、総じて度胸、義侠心、目配りが違うのである。
心しておきたい。
● 人心掌握力
人心掌握(じんしんしょうあく)とは、文字通り人の心をガッツリと
つかむことです。 それは信頼や尊敬をあらわし、あなたの影響力や
存在価値が拡大することを意味します。 仕事でもプライベートでも、
こういった人心掌握ができれば、あなたの評価は一気にグッと高まり
ます。2018/09/28
● 近親増悪(きんしんぞうお)
親族どうし、または階層や性質などの似た者どうしが、
ひどく憎み合うこと。
● 後継
1. 前任者や師・先輩などから、事業・学問・地位などを引き継ぐこと。
また、その人。あとつぎ。「後継の内閣」「後継者」
2. あとに続くこと。特に、あとから続く軍隊。あとぞなえ。
● 気脈
仲間うちなどでの、考え・気持ちのつながり。
● 陰に陽に(いんにように)
あるときはひそかに、あるときは公然と。 また、あらゆる機会に。
● 一所懸命
「一所懸命」[イッショケンメイ]は、「昔、武士が賜った『一か所』の
領地を命がけで守り、それを生活の頼りにして生きたこと」に由来した
ことばです。 これが「物事を命がけでやる」という意味に転じて、文字の
ほうも「一生懸命」[イッショーケンメイ]とも書かれるようになりました。
2000/01/01
● 度胸
物事を恐れない心。気おくれしない精神力。きもったま。
「度胸をつける」「度胸の据わった人」
● 義侠心
物事を恐れない心。気おくれしない精神力。きもったま。
「度胸をつける」「度胸の据わった人」
● 目配り
目配りとは、「いろいろなところに、注意を行き届かせること」です。
そのためには、広い視野を持って、細かい点まで気づくことが必要です。
目配りができる人は、常に顔を上げて周りを注意深く見ています。
2019/11/08
この続きは、次回に。