実践するドラッカー[思考編] ③
A lesson from P.F.Drucker
∵ 情報と知識の違い
知識は、本の中にはない。本の中にあるものは情報である。
知識とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である。
『創造する経営者』—–p.144
情報と知識は、どう違うのでしょうか。
医師の例で考えてみましょう。
医学部に入学すると、まず一般教養や基礎医学を学び、人体の構造や機能、
疾患などの基礎的な情報や技術を身につけます。
次に、内科、外科、精神科など、診断や治療により臨床医学の情報や技術を
身につけ、実習を行い、卒業試験で合格した者が医師国家試験を受けます。
しかし、医師免許を取得しても、まだ、必要な情報を身につけた人でしか
ありません。
実際に医師として価値を生み出すには、研修医として二年間、臨床研修を
受ける中で、医師として欠かせない、基本的かつ最低限の技能を培う必要が
あります。
ここまで来て初めて、患者の治療ができるようになります。
医師として真に必要な知識を得た、といえるのです。
どんな仕事でも、この構造は変わりません。必要な情報や基本的な技能を
修得することで、単に「知っている」状態から「わかった」状態にもって
いき、実際の行動を通して仕事につなげていく。
そのような能力を身につけて初めて、知識を得たというのです。
いい換えれば、知識とは体系的なものであり、体験を通した「実務」なのだ
といえます。どんな会社にも、どんな職種でも、情報と知識の違いがあり、
それが仕事の質を左右します。
コラムを参考に、あなた自身の仕事の情報を整理してみてください。
● 体系的
「体系的」とは一つ一つのものがある系統に従ってまとまっているさまの
ことです。個々の要素が一定の順序や秩序などのルールに従い、まとめ
られている状態や、同じ種類のものが一つのグループとしてまとめられて
いる状態です。2020/05/31
コラム 情報と知識の例
■■ 営業では—-
「今月の請求書発行リスト」「大口取引先リスト」など、一定の目的に
沿って整理された取引データが、情報に当たります。
それらの情報をもとに分析を行い、何らかのアクションを起こすことが
できれば、それは顧客に関する知識となります。
例えば、各種の情報から「毎月お買い上げがあったにもかかわらず、先月
お買い上げがなかった顧客のリスト」を導き出すことができれば、その
顧客にアポイントをとり、接触し、事情を探ることができます。
このように、行動に結びつくものが知識です。
■■ 経理では—-
試算表、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などは情報に
当たります。
ここに、季節的要因情報や曜日情報などの経験的要素(知恵)を加え、資金
繰り予定表を作成すると、それが知識となります。
実際の資金の支払い、調達や運用という行動につながるからです。
ちなみに、情報の前に仕訳伝票というデータが存在することは言うまでも
ありません。
■■ 製造では—-
製造現場はデータにあれています。
例えば、顧客の納期要求データと実際の出荷データから、納期達成率と
いう情報を作成し、それを定期的に分析して、納期管理の一指標とする
ことができます。
これらの情報を知識に転換するには、顧客の要求より実際の出荷日が遅れた
ケースと、その原因を記した報告書から、原因の類型分析を行い、対策案を
検討し、マニュアルへ反映するといった、具体的な行動につなげていく
ことが必要となります。
■■ 新入社員の場合—-
新入社員が知りうることは、組織全体から見ればごくわずかです。
情報以前に、まずはデータをつくることから始めなければなりません。
毎日の営業日報はデータですが、三か月書き続け、集計し、分析すると、
見えてくるものがあります。上手くいったこと、失敗したこと、それらに
傾向があること。時間の使い方、上司への報告や相談のタイミングなど、
さまざまです。
それらを踏まえてアドバイスをもらえば、多くの情報が手に入ります。
得た情報をもとに行動を修正しましょう。成果が出たもの、出ないもの。
それぞれの結果が、数か月後に出て来ます。
このように、自らの実践によってつんだものが、知識です。
■■ 中間管理職の場合—
中間管理職のもとには、上層部からの方針や指示、部下からの現場報告
など、さまざまなデータや情報が集まります。
例えば、下記の全社方針に基づく所属部署の目標は、情報に当たります。
具体的な行動については指示されていないので、中間管理職は、その情報を
知識に変えなければなりません。
そこで、目標達成に必要なアクションプランをチームで作成し、過去の
失敗や成功の経験、つまり実践の知恵を織り込んでいきます。
このように、指示や方針を実践に結びつける計画にできたとき、情報は
知識に転換されていくのです。
■■ 経営トップの場合—-
経営環境は目まぐるしく変化しており、経営者は日々大量の情報にさら
されています。追い風もあれば逆風もあり、対応を間違えれば企業の存亡に
関わることもあります。大切なのは、変化に一喜一憂するのではなく、
変化がもたらすイノベーションの機会を見出すことです。
組織が新たな価値を生み出す種子を手に入れるのです。
もちろん、すべての種子が順調に育つわけではありません。
常にいくつかの情報にあたりをつけておく必要があります。
それらの情報に、組織の強みや経験の蓄積などを加味し、ふさわしい種子を
決め、育てていくことです。
こうして一連の情報を価値ある知識に変えていくのが、経営者の役割です。
■■ 専門職の場合—–
専門職が手にする情報は、狭く深いものが多いため、ついそれだけに目を
奪われてしまいがちです。しかし、専門情報は価値、つまりお金に換えて
ナンボと言う前提を忘れてしまうのは問題です。
研究のための研究や技術など、目的を喪失して得られたものは、知識では
なく情報の束にすぎません。ただの情報は、資源の無駄づかいになります。
一方で、自らが手にしている専門情報を全体の中に位置づけられる人は、
真に知識を所有している人だといえます。
真の知識とは、情報の量や質ではなく、価値という成果を意識し、特赦な
言語を誰にでもわかる言葉に翻訳できる能力を伴うのです。
● 特赦
恩赦の一。有罪の言い渡しを受けた特定の者に対して、その効力を
失わせること。
● 恩赦
恩赦(おんしゃ、英語: Pardon)とは、行政権(又は立法権)により
国家の刑罰権の全部又は一部を消滅若しくは軽減させる制度のことを
言う。赦免復権とも言われる。
権威者が宗教儀式などに合わせて恩赦を与えることは、古代から行わ
れており、ユダヤ教では過越において罪人に恩赦を与えることが、
慣例となっていた。
この続きは、次回に。