実践するドラッカー[思考編] ⑳
A lesson from P.F.Drucker
∵ 人間関係に必要な基本能力
貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、
自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な
能力を身につけることができる。
『経営者の条件』—p.93
個人が組織に貢献するには、「なすべくことを明確にする」「そのために
必要な知識やスキルを磨く」「行動する」という三つのプロセスが欠かせ
ません。
そこでは、人間関係に必要な四つの能力が問われてきます。
以下にその関連を見ていきましょう。
● なすべきことを明確にする=「コミュニケーション」能力
なすべきことを明確にするには、部下や上司、同僚がお互いに「あなたが
貢献するためには、私は何をしなければならないか」を問う必要があります。
相互理解を進めるには、質問する力と聞く力が求められるのです。
● 必要な知識やスキルを磨く=「自己開発」と「人材育成」
ここでの「人材育成」とは、誰かに育成してもらうといった受動的なもの
ではなく、他人の「自己育成」を動機づけるという意味合いが含まれて
います。
自己開発とは、教えることや教えられることの限界を知り、自ら学ぶ姿勢を
身につけ、行動することです。結局、私たちは、一人ひとりが自分と向き
合って知識やスキルを磨くしかありません。
● 行動する=「チームワーク」
共有する目的や目標は何か、それぞれが果たす役割は何かがきちんと
理解されていなければ、せっかく個々人が行動しても貢献のリレーは
つながらず、成果に結びつきません。チームで実践するということは、
貢献の相互補完にほかならないのです。
A lesson from P.F.Drucker
∵ 自らに問いかける
なすべき貢献は何であるかという問いに答えを出すには、三つの要素を
考える必要がある。
第一は、状況が何を求めているのかである。
第二は、自己の強み、仕事の仕方、価値観からして、いかにして最大の
貢献をなしうるかである。
第三は、世のなかを変えるためには、いかなる成果を具体的に上げる
べきかである。
『P・F・ドラッカー経営論』—p.611
ドラッカー教授の基本的な考え方の一つに「全体と部分」というものが
あります。全体は、単なる部分の総和ではありません。
仕事の局面でいう「全体」とは、顧客に価値を提供することで、社会の
役割の一翼を担うことです。したがって、私たちは常に全体の状況が求めて
いることを考えなければなりません。
そのうえで、一人ひとりの貢献という「部分」を問います。
つまり、自らの強みを知り、仕事の仕方を状況にあわせて調整し、価値観を
問うことで、全体に対して最大の貢献を果たすよう努めていくのです。
車にたとえて考えてみましょう。
自分の現在のエンジンの出力や加速性能を知らなければ、どれくらいの
荷を積んで、どれぐらいのスピードで進めるかがわかりません。
エンジンの出力がよくても、駆動輪にうまくパワーが伝わらなければ車は
動きません。また、上り坂なのか下り坂なのか、カーブなのか直線なのか、
状況に合わせて調整しなければ、坂道でエンストしたり、スピードが
出すぎたりします。
未来についても、同じことがいえます。
自分という車を使ってどこまで行くか考えるのです。
「世の中を変えるために」といった理想のゴールを目指すには、エンジンの
出力が足りないかもしれません。他に装備が必要かもしれません。
思い描く到達点を目指して、日々チューンナップを心がけ、毎日少しずつ
進んでいくことで、いつの日かエンジンの出力は何倍にもなり、たくさんの
搭載量を担えるようになるはずです。
こうして一人ひとりという「部分」を高めることで、「全体」の成果は、
単なる部分の総和以上に増幅されるのです。
この続きは、次回に。