実践するドラッカー[思考編] ㉓
A lesson from P.F.Drucker
∵ 上司の強みを生かす
上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげる鍵である。
上司に認められ活用されることによって、初めて自らの貢献に
焦点を合わせることが可能となる。
『経営者の条件』—-p.128
貢献のリレーの中では、とりわけ上司とのつながりが重要です。
上司が部下の貢献の輪を束ね、上方や左右にその輪をつなげていくから
です。つまり、上司をうまく生かせば、自分の仕事は、より価値あるもの
になるのです。
そこで部下が考えるべきことは、上司の強みです。
組織の中に上司部下の関係は数多く存在します。それぞれの場所で上司の
強みを生かすことができれば、組織全体に大きなパワーがもたらされます。
同時に、上司の弱みを知り、カバーすることが大切です。
ドラッカー教授にも、そうした経験がありました。
二○代半ばにフリードバーグ商会で働いていた頃の話です。
当時の上司である創立者のフリードバーグ氏は、大変優秀な人物でしたが、
無意識に取引伝票を破り捨てるという困った癖がありました。
そのために会計が合わなくなり、取引先とトラブルになることもしょっ
ちゅうでした。
ドラッカー青年は、清掃係に破られた伝票を捨てないように指示を出し、
自ら伝票紙片を探し出し未然にトラブルを防ぐようにしたとのことです。
そのことを知ったフリードバーグ氏は、目を細めて喜んだそうです。
● 成果
あることをして得られたよい結果。「研究の成果」「成果をあげる」
A lesson from P.F.Drucker
∵努力の方向を変える
私は新しい仕事を始めるたびに、「新しい仕事で成果をあげるには何を
しなければならないか」を自問している。もちろん答えは、そのたびに
違ったものになっている。(中略)
新しい任務で成功するうえで必要なことは、卓越した知識や卓越した才能
ではない。それは、新しい任務が要求するもの、新しい挑戦、仕事、課題に
おいて重要なことに集中することである。
『プロフェッショナルの条件』—-p.104,p.105
方向を間違えれば、いくら量をこなしても、その努力は水泡に帰してしまい
ます。そこで考えるべきことは、「状況が何を求めているか」です。
立場や環境が変われば、貢献の中身、つまりは仕事の内容を変えなければ
なりません。
ドラッカー教授自身も二○代で手痛い失敗をしています。
生保会社の証券アナリストから投資銀行に転職して三か月ほど経ったある日、
「いまの仕事で成果をあげるためには何をしなければならないと思っている
のか」と創業者に叱責されました。
創業者は若い彼に役員秘書としての機能を期待していたのです。
そのときは相当頭に血が上った、しかし認めざるをえなかった、と教授は
回顧しています。以来、新しい仕事に取り組む度に、「その仕事で成果を
あげるには何をしなければならないか」を問い、必要に応じて努力の方向を
変えているそうです。
仕事や環境が変わったとたんに調子が崩れた人は、いま、ここで何を求め
られているのかを、ゼロから考え直してみてください。
柔軟な姿勢があれば、きっと状況を打破できるはずです。
● 卓越
群をぬいてすぐれていること。また、そのさま。
● 水泡
水のあわが消えやすいところから、はかないこと、
むだになることのたとえ。
● 叱責
他人の失敗などをしかりとがめること。「部下をきびしく𠮟責する」
この続きは、次回に。