実践するドラッカー[行動編] ㉑
A lesson from P.F.Drucker
∵目標の決め方
目標は、自らの属する部門への貢献によって規定しなければならない。
『マネジメント<中>』—-p.81
仕事の目標は、勝手には決められません。
目標を立てるには、組織が成果をあげるために自分がなすべきことは何か、
果たすべき貢献を明確にするプロセスが必要です。
第一に、組織の成果を確認することです。最初に問うべきは次の二つです。
・顧客は誰か
・その顧客が求める価値は何か
これらに対する答えが見えて初めて、次の問いが可能となります。
・われわれの成果は何か
どのような顧客に対し、何をどれくらい提供するのか、売上高は、利益は
—–具体的な成果の基準が、組織の目標になります。
第二に、それらの目標を実現するために自分ができる貢献を徹底的に考える
ことです。
ここで重要なのが、自らの強みやワークスタイルを生かすことです
(『実践するドラッカー[思考編]』第4章参照)。
自分が持っていないもので貢献することはできません。
いつ誰に、どんな貢献をするのか、これが個人の目標の基礎になります。
こうして二つの目標が同一線上に並んだとき、組織の成長と個人の成長が
実現します。
A lesson from P.F.Drucker
∵「唯一正しい目標」はない
今日、目標管理すなわち目標によるマネジメントについての議論のほと
んどが、「唯一正しい目標」を探求するものである。
しかしそれは、賢者の石を探し求めるように空しいだけではない。
明らかに毒をなし、誤って人を導く。
『現代の経営<上>』—-p.82
事業の目標は一つではありません。
今期設定した利益目標が、人材育成という長期目標と相反することはよく
あります。組織は長期にわたって社会的役割を果たすことが目的であり、
そのためには今期の利益を人材育成も必要です。
実際ドラッカー教授は、マーケティング、イノベーション、生産性、人的
資源など複数の必要な目標を挙げ、そのバランスをとることの重要性を
強調しました。
私たち個人の目標もまた長期短期のバランスをとる必要があり、さらには、
健康や家族など、仕事以外も考慮しなければなりません。
目標は相互に作用します。どれかに偏ることは、全体のバランスを崩し、
目的の達成を著しく妨げます。
複数の目標を立てる際は、次の基準が参考になります。
・その目標は、なすべきことを明らかにしているか
・その目標から、いかになすべきかを導き出せるか
・その目標は、諸々の意思決定の妥当性を明らかにできるか
・その目標は、なすべきことをなしたか否かの判断を下せる形式に
なっているか
・その目標から、活動の改善方法を明らかにできるか
コラム 目標間のバランスをとる
目標間のバランスをとることは大切ですが、その前に確認すべきことは
短期と長期の「調和」だとドラッカー教授はいいます。
短期目標は達成するための行動が、そのまま長期目標達成の手段となって
いれば、両者は調和していることになり、好ましい状況だといえます。
しかし多くの場合、短期と長期は、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを
えないというトレードオフの関係にあります。
そこで、どのようにバランスを取るかが重要になってくるのです。
個人の例で考えてみましょう。
私たちが成果をあげるためにもっている二大資源は、時間と能力です。
仮に、現在もっている能力を使って、いま時点であげることができる
成果を一○とします。これを将来二○にするには、短期目標を達成する
ための行動に費やす時間を、長期目標を達成するための行動に振り向け
なければなりません。
その結果、短期目標については、成果は八で我慢することになるかもしれ
ません。なぜなら将来の成果に備え、能力の増強に力点をおかなければ
ならないからです。その代わりに、五年後に二○の成果を出せるように
なっていればよいわけです。
この続きは、次回に。