「人を動かす人」になれ! ㉒
25.部下の提案に「しかし」をつけるな
「やる気のある人間」といういい方をするが、わたしはすべての人間は
やる気を持っていると考えている。
たとえば、パソコンに熱中している人、わざわざ球場や競技場に出かけて
いって声をからしてひいきのチームを応援する人、休みの日に朝早く起きて
マイカーをピカピカに磨きあげる人—–。
彼らは、誰から命令されたわけでもないのに自主的に、しかも嬉々として
やっている。
本来、人間は働き者のはずである。ところが、現実にはこの働き者の
人間が動かなくなってしまう場合の方が圧倒的に多い。
その大きな原因は、会社の仕組みと上司の意識に問題があるからだと、
私は考えている。
若い部下が、「ここは頑張って一花咲かそう」と前向きの企画や提案を
上司にぶつける。ところが上司は、何やかやと理由をつけて反対する。
わたしは、日本電産を創業するまでに二つの会社に技術者として、お世話に
なったが、こんなことの連続であった。
たとえば、「部長、この間新製品を発売した競合メーカーに対抗して、
わが社でもこういうモータを開発しないと競争に負けてしまいます。
図面がここまでできているので、試作品をつくることを許可してください」
とわたしが上司に提案する。ところが、返事は決まって「君のいいたい
ことはよくわかる、しかし—–」と、いつも「しかし」がつくのである。
そして、「それよりも、いま大量に注文のある換気扇、テープレコーダーの
モータ、これに力を注ぐのが先決だ」となる。
上司がこんな意識では、いくらやる気のある部下でもそのうちにやる気を
失ってしまう。わたしの場合は、それでもへこたれずにその上の上司、
そこでダメならさらにその上の上司へと持っていく。
そのためにいたるところで上司と衝突し、二社とも辞表を提出するという
結果となった。こうしたわたしの経験から、わが社では二○歳代の社員に、
他社なら三○歳代、四○歳代の社員がしているような仕事を任せる一方で、
何もしない、いわれたことしかできない社員より、チャレンジして失敗
した社員、自主的に能動的に行動した社員、前向きな提案を行った社員を
高く評価する方針を貫いてきた。また、わたし自身が強いリーダー、
チャレンジ精神の旺盛な幹部社員を育成していく先頭に立っている。
当然すぎることだが、社員のやる気を引き出す最大のポイントは、
その仕組みづくりと管理者の意識改革だ。
これが経営者の仕事のすべてだといっても過言ではない。
● 嬉々
「嬉々」とは、嬉しそうな様子、大喜びなさま、たいそう喜んでことに
当たる様子です。言葉を重ねて語調を整え、「嬉」の意味を強めています。
多くの場合、「嬉々として」と副詞的に用いられます。 しかし、一般的
には「嬉々」や「嬉嬉」ではなく、同じ読み方でほぼ同義の「喜々」や
「喜喜」と表記されるケースが多いでしょう。2019/12/16
● 一花咲かす
ひとはな【一花】=咲(さ)かす[=咲(さ)かせる] 一時成功して栄える。
また、成功して得意な時代を送る。
● 能動的
能動的とは、自らが考えて物事に取り組むという意味のことである。
英語で能動的は active と表現する。能動的の類語には「積極的」が挙げ
られる積極的の語は、活発で主張が強い様子を指し示す言葉といえる。
2020/08/18
この続きは、次回に。