「人を動かす人」になれ! ㊾
53.定年間近な社員は、この一言でやる気を出させる
人間の適応力のすごさには感心させられることが多い。
氷に閉ざされた極寒の北極圏でたくましく生きている人たち、あるいは
赤道直下の奥深い山のなかや砂漠地帯であってもその環境に適応して、
人間は力強く生きている。
このような適応力は人間の底知れぬパワーを感じさせてくれる。
だが、これを少し間違うと、適応力は惰性や慣れとなってしまう。
この慣れは人をダメにし、組織を破壊していく恐ろしいパワーを秘めて
いるのだ。つまり、〝適応力〟は、外部からの働きかけに対してそれに
立ち向かい、はね返そう、何とか克服していこうと工夫し、知恵を絞る
ことで、ここには大きな前進がある。しかし、〝慣れ〟は、同じ外部からの
働きかけに対してそこから目をそらし、頭を低くして、ただ通り過ぎる
のを待つだけということで、ここにあるのはマンネリと無責任さである。
時間切れを待つ—-。定年が間近に迫っている社員のなかには、こういった
考えをする人も目立ってくる。恐らく、定年まで後二年、あるいは三年
しか残っていないのだから、いまさら波風を立てたくない、平穏無事に
幕を下ろしたいといった意識が強く働きはじめるのであろう。
だが、彼らには若手社員など足元にも及ばない仕事に関する豊富なノウハウ、
そして素晴らしいキャリアがありながら、それを自らの手で葬り去ろうと
するのが、わたしには残念でたまらない。
スポーツ、特にボクシングや柔道などの格闘技は、一方が守りに入って
しまうとおもしろくなくなり、見る側は白けてしまう。
もちろん仕事は人に観せて、楽しんでもらうためのパフォーマンスが目的
ではないが、周囲に大きな影響を与えてしまうということがある。
定年が近づいているとはいえ、組織の重鎮が完全に守りに入ってしまうと
組織全体の動きも鈍ってしまう。
こんな兆候があらわれたときには、わたしは本人を呼んで「あなたは、
わが社にとっても、部門にとってもなくてはならない存在だ。
いないと困る。今こそ目一杯働いてほしい」とストレートにお願いする
ようにしている。それだけではなく、定年はあってもその後は契約社員
として残ってもらえる制度をつくり、ここでの働きによっては退職金を
プラスして支給するようにしている。
定年の近い社員のやる気を起こさせることは、組織全体を活性化させる
一つの秘訣であると思う。
● 適応力
環境に従い行動や考え方をうまく切り替える能力。 適応する力。
● 波風を立てる
物事に面倒な事案、揉め事を持ち込むことを意味する表現。
事を荒立てる。
● 平穏無事
変わったこともなく穏やかなさま。 ▽「平穏」は穏やか、安らかの意。
変わった事がない意の「無事」に「平穏」を添えて意味を強調した語。
● 重鎮
ある社会・分野で重きをなす人物。「財界の―」
● 兆候
物事の起こる前ぶれ。きざし。前兆。「景気回復の―がみえる」
● 秘訣
人には知られていない最も効果的な方法。とっておきの手段。「成功の―」
この続きは、次回に。