「人を動かす人」になれ! ㊿+14
67.モラルは「押しつける」のではなく、なぜ必要かを説明しておく。
わが社が新しく取り引きを開始することになった会社があれば、扱いの
量や規模に関係なく、わたし自身が相手先を訪問して必ずチェックして
いるポイントがある。
一つは、従業員の出勤時間。
ちょっとした会社なら守衛室か、工場の入口近くにタイムレコーダーが
あるので、簡単に理由を説明してタイムカードを見せてもらう。
それで、欠勤や遅刻が目立つようなら取り引き中止を担当者に告げる。
もう一つは、事務所や工場内、敷地内の整理、整頓、清掃が行き届いて
いるかどうかだ。
建物が大きいとか小さいとか、新しいとか古いとか、設備が立派か貧弱
かというのはまったく関係がない。見た目に汚れがなくても、案内された
応接室の灰皿の吸い殻がそのままになっていたり、窓ガラスが三ヵ月も
半年も磨かれた様子がないようであればアウトである。
理由は、出勤率と六S(整理・整頓・清潔・清掃・躾・作法)が、その会社の
従業員のモラルの高さを示すバロメーターであり、ひいては経営者のモラル
のレベルを端的にあらわしていると考えるからだ。
たとえば出勤率。従業員がよく休むのは、病気や家庭の事情という止むを
得ないものを除くと、会社への不平・不満があることに起因する。
これは、遅刻が増える、たまに休むといった初期症状のうちに、上司が
話し合いの場を設けるなど適切な手を打てば、問題もスムーズに解決しや
すい。ところが、部下が休もうが遅刻をしようが、上司が放っておくから
そのうちに辞めてしまう。これなどは上司、経営者のモラルが低い証拠で
ある。整理・整頓・清掃も同じで、不充分なら「やれ」と指示しなくては
いけない。
わたしは、機会があるたびに社員の前でこうした話をする。いや、して
おくのだ。他社の例をあげて「こんな会社と取り引きをしたら、とんでも
ない部品を納めてくる」とやんわりと布石を打っておくのである。
そして、わが社の社員が同じことをやると、「わが社もあの会社と同じで、
商品を買ってくれるところがなくなってしまう」と注意を促す。
つまり、単に「休むな」「遅刻をするな」「整理・整頓をしろ」という
だけでは、なかなか相手には通じない。なぜ、休んだり、遅刻をするのが
よくないのか。整理・整頓・清掃が行き届いていなければ、どう言う結果を
招くのか。この辺りは、そのときになって話をするのではなく、普段から
きちんと説明しておく必要がある。このような布石とその場その場での
注意と喚起。この二つのバランスがとれてはじめて、部下は上司から
いわれなくても自ら行動を起こすようになるのである。
● モラル
モラルとは、倫理や道徳意識という意味である。 わかりやすく言うと、
日常生活に即した道徳的に正しい行動のことで、世代や状況によって
変化するマナーとは異なる、普遍的な基準ということである。
法的な根拠を持たない、道徳的、倫理的な基準である。また、人間関係に
おける善悪を判断する感性という意味も持つ。2020/08/05
● 倫理
人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準と
なるもの。道徳。モラル。「―にもとる行為」「―観」「政治―」
● 道徳
人々が、善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばなら
ない規範の総体。外面的・物理的強制を伴う法律と異なり、自発的に
正しい行為へと促す内面的原理として働く。
● 起因
ある事の起こる原因となること。「機械の未整備に―する事故」
● 布石
1. 囲碁で、序盤戦での要所要所への石の配置。
2. 将来のために配置しておく備え。「新党結成への―を打つ」
● 喚起
呼び起こすこと。呼び覚ますこと。「注意を―する」「世論を―する」
この続きは、次回に。