「人を動かす人」になれ! ㊿+21
74.自分の考え方を話すときは裏づけを用意しろ!
恐らく経営理念や経営計画を掲げていない企業はないだろう。
だが、立派な経営理念を持ちながら、それが単なるお題目に終わっている
企業が多いのではないだろうか。また、年度はじめに年間計画や中長期の
経営計画を発表しても、そうした計画がかけ声だけで実現したためしが
ない、あるいは目標にはるか及ばなくてもトップが涼しい顔をしている、
というのでは、はっきりいって社員はついてこない。
日本電産をたった四人で旗揚げしたときに、わたしは会社の基本方針を
しっかりと決めておくことが大切だと考え、ほかの三名と知恵を出し合い
『経営三原則』を策定した。
一、企業とは社会の公器であることを忘れることなく経営にあたる。
すなわち、非同族企業をめざし何人(なんびと)も企業を私物化する
ことを許されない。
二、自らの力で技術開発を行い、自らの力でつくり、自らの力でセールス
する独自性のある企業であること。すなわち、いかなる企業のカサの
中にも入らない独立独歩の企業づくりを推進する。
三、世界に通用する商品づくりに全力をあげ、世界の市場で世界の企業と
競争する。すなわち、インターナショナルな企業になることを、自覚し
努力する。
わたしの自宅の一室を事務所にして、四名の人間が鳩首協議してつくった
経営理念がこれであった。もちろん、仕事もなければ、まだ工場や設備
もないときにである。いまになって、考えると面映い気持ちがしないでも
ないが、それからこれまでの二五年間、わたしはこの理念に則って経営に
取り組んできた。もし、この経営三原則がなければ、恐らく今日の日本
電産はなかったであろう。また、経営計画についても、創業一○年目ぐらい
からは年々売上を倍にすると宣言し、以後七、八年ぐらいは、それに近い
売上を達成した。その後も海外生産や上場(東証ならびに大証一部、京証
への上場)といった目標をおおむね計画通りに実現してきた。
これは、多くの人を動かすうえで非常に大事なポイントである。
わたしは、社員研修会を開いて、これまでの経験を事例にいろんな話を
するが、そのときも「こうした考え方でやってきて、実現した結果がこうだ」
と社員に見せる裏づけとなるものがなければ説得力を持たない。
人を動かす信頼関係のベースになるのは揺らぐことのない信念、そして
計画したことは必ず実現させるという執念が不可欠だという一例である。
● 経営理念
経営理念とは、組織の存在意義や使命を、普遍的な形で表した基本的
価値観の表明。平たく言えば、「会社や組織は何のために存在するのか、
経営をどういう目的で、どのような形で行うことができるのか」という
ことを明文化したものである。すなわち経営理念は企業文化を形成する
主要な要素である。
● 経営計画
経営計画とは、企業がその将来に向かって、経営ビジョンや目標を達成
するために 必要な計画という広い意味があります。実際の運用面では、
毎年新しい中期経営計画を策定し、そこから短期経営計画に落としこむ
ことで予算化し、予実管理を行うことが望ましいことになります。
● お題目
口先だけで、実質のともなわないこと。「お―ばかり並べる」
● 公器
おおやけのもの。公共のための機関。「新聞は社会の―である」
● 独立独歩
他人にたよらず、自分の信じるところに従って行動すること。
独立独行。「―の精神」
● 鳩首協議(きゅうしゅ-きょうぎ)
・人が集まって真剣に話し合うこと。「鳩」は集めるという意味。
「鳩首」は人が顔を合わせて集まること。
「協議」は真剣に話合うこと。
・きゅうしゅ-ぎょうぎ【鳩首凝議】
人々が集まり、額を寄せ合って熱心に相談すること。
▽「鳩」は集める意。「鳩首」は頭を集めることで、人々が集まり
額を突き合わせる意
この続きは、次回に。