「人を動かす人」になれ! ㊿+25
80.トップダウンでしか動かない人間に、人を動かす資格はない
少しわが社のことをご存知の方なら、日本電産は猛烈なワンマン会社だと
思っておられるようだ。だが、これは実態とはかなりかけ離れている。
一例をあげると、仮にある部長がわたしに決裁を求めてきたとする。
この中には社長決裁が必要なものも含まれてはいるが、部長の判断で決裁
すべき案件の方が圧倒的に多数を占める。
このような場合、五年ぐらい前ならいきなり「君は何のために部長をやっと
るんだ」と怒鳴りつけたものである。しかし、最近は「君はどう思うのか」
と尋ねて、明確な答えを用意しているのなら、それでよしとしている。
とはいえ、ロクに自分の考えも持たずに何でもかんでも、答えを社長に
求めようとする部長だと、頭にカーッと血がのぼる。
要するに、上を見て仕事をするなということ。
部長の目がしっかりとユーザーに向いているのであれば、「ユーザーの
立場に立って、わたしはこのように判断しました」とはっきり断言できる
はずである。わたしは管理者にこれを求めているのであって、社長の喜び
そうな判断、決断では決してない。わたしは、社員一人一人が自分で考え、
自分で判断し、そのなかでリーダーはリーダーとしての指導力がフルに
発揮できる組織を作りたいと思っている。ソニーやホンダのような自由で、
個性の活かせる会社だ。上位下達、トップダウンでしか動かないような
組織は、早晩、時代の藻屑となって消滅する運命をたどる以外にない。
もう一つ、わが社には労働組合がない。これもわたしは不満に感じている
ことで、かねてから、「一○○○名近い社員の意見を取りまとめて、社長と
直談判したいという労組の委員長があらわれたなら、その場で重役にする。
何なら、いつでもその人物と社長を交代してもよい」と、むしろ挑発して
きたぐらいだ。しかし、いまの若い人たちにそんな覇気、野心はほとんど
見られない。
ちなみに、わたしが学生時代にあこがれたのは、一番がヤクザの親分、
二番目が労働組合の委員長、三番目が社長だった。
たとえ数十名であっても、社会の枠からはみ出したアウトローを牛耳る
ヤクザの親分は人使いの天才、何百人ものワーカーの気持ちを一つにまとめ
あげることができる労組の委員長は人の心をつかむ名人だと考えたからだ。
ヤクザの親分、労組の委員長と比べれば、こと人を動かすことにおいて
社長は足元にも及ばない。ましてや一○名、二○名の組織の管理者が、
「部下が思ったように動かない」とグチをこぼしている姿は見たくない。
● 上位下達
上位の者の意志や命令を、下位の者に徹底させること。
▽「上意」は上の者の意志や命令。「下達」は下々の者に通じさせること。
「下達」は「げだつ」とも読む。
● トップ‐ダウン(top-down)
企業経営などで、組織の上層部が意思決定をし、その実行を下部組織に
指示する管理方式。→ボトムアップ
● 早晩
早いことと遅いこと。また、朝と夕。
「二百十日の暴風と云うは…其―などは年に寄って異なるとも」
〈西周・百一新論〉
[副]おそかれはやかれ。いずれ。「あの力士は―横綱になるだろう」
● 藻屑
海の中の藻などのくず。また、そのように取るに足らないもの。
「海の―となる」
● 覇気
1. 物事に積極的に取り組もうとする意気込み。
「若いのに―がなくてどうする」
2. 人の上に立とうとする強い意志。野心。野望。
● 野心
1. ひそかに抱く、大きな望み。また、身分不相応のよくない望み。
野望。「政治家になりたいという―に燃える」「政権奪取の―をもつ」
2. 新しいことに取り組もうとする気持ち。「―作」
3. 野生の動物が人に馴れずに歯向かうように、人に馴れ服さず害を
及ぼそうとする心。
「但し―改め難くして、情 (こころ) に猶予を懐けり」〈三教指帰・下〉
● アウトロー(outlaw)
法の保護や秩序の外にある者。無法者。
この続きは、次回に。