お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊷

第二の領域にある価値への取り組みは、技術面でリーダーシップを獲得

することである場合もあるし、シアーズ・ローバックのようにアメリカの

一般家庭のために最も品質のよい財やサービスを見つけ出すことである

場合もある。

もちろん価値への取り組みもまた、直接的な成果と同じように明白なもの

ばかりとは限らない。

 

長年の間アメリカ農務省は、根本的に相容れない二つの価値観に身を裂かれ

てきた。その一つが農業の生産性の向上であり、もう一つが国の柱としての

農家の維持だった。

前者が目指す者は大規模事業としての産業的農業だった。

後者が目指すものは保護された田園的な農家だった。

少なくともごく最近まで、アメリカの農政はこれらの二つの価値観の間で

揺れ動いてきた。その結果残ったものは、毎年の膨大な支出だけだった。

 

第三の領域が人材の育成である。組織は個としての生身の人間の限界を

乗り越える手段である。したがって自らの存続させえない組織は失敗で

ある。今日、明日のマネジメントにあたるべき人間を準備しなければなら

ない。人的資源を更新していかなければならない。

確実に高度化していかなければならない。

そして次の世代は、現在の世代が刻苦と献身によって達成したものを

当然のこととし、さらにその次の世代にとって当然となるべき新しい

記録をつくっていかなければならない。

ビジョンや能力や業績において、今日の水準を維持しているだけの組織は

適応の能力を失ったというべきである。人間社会において唯一確実なものは

変化である。自らを変革できない組織は明日の変化に生き残ることは

できない。

貢献に焦点を合わせるということは人材を育成するということである。

人は課された要求水準に適応する。貢献に照準を合わせる者はともに

働く全ての人の視点と水準を高める。

 

新人の病院長が最初の会議を開いたとき、ある難しい問題について全員が

満足できる答えがまとまったように見えた。そのとき一人の出席者が、

「この答えに、ブラインアン看護師は満足するだろうか」と発言した。

再び議論が始まり、やがてはるかに野心的なまったく新しい解決策が

できた。

その病院長は、ブライアン看護師が古参看護師の一人であることを知った。

特にすぐれた看護師でもなく、看護師長をつとめたこともなかった。

だが彼女は、自分の病棟で何か新しいことが決まりそうになると、

「それは患者さんにとっていちばんよいことでしょうか」と必ず聞く

ことで有名だった。

事実、ブライアン看護師の病棟の患者は回復が早かった。

何年か後には、病院全体に「ブライアン看護師の原則」なるものができ

あがった。みなが「目的とするものに最高の貢献をしているか」を常に

考えるようになっていた。

今日では、ブライアン看護師が引退して一○年が経つ。

しかし彼女が設定した基準は、彼女よりも教育や地位が上の人たちに対し、

いまも高い要求を課している。

 

 

この続きは、次回に。

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