ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+9
業績は、貢献や成果という客観基準によって評価しなければならない。
しかしそれは、仕事を非属人的に規定し構築して初めて可能となる。
さもなければ、「何が正しいか」ではなく「誰が正しいか」を重視する
ようになる。人事も「秀でた仕事をする可能性」ではなく「好きな人間は
誰か」「好ましいか」によって決定するようになる。
人に合わせて仕事を構築するならば、組織は情実となれあいに向かう。
しかし情実やなれあいの余裕はない。組織は公平さと非属人的な公正さを
必要とする。さもなくば、優れた者は去り、あるいは意欲を失う。
しかも組織は多様性を必要とする。さもなくば、変革の能力を欠き、
正しい意思決定を行ううえで必要となる異なる見解の能力(第7章参照)を
失うことになる。
ということは、一流のチームをつくる者は直接の同僚や部下とは親しく
しないということである。好き嫌いではなく何をできるかで人を選ぶと
いうことは、調和ではなく成果を求めるということである。
そのため彼らは、仕事上近い人間とは距離を置く。
しばしばいわれているように、リンカーンはスタントン陸軍長官その他
との親密な関係を絶ってから成果をあげるようになった。
フランクリン・D・ローズヴェルトもモーゲンソー財務長官を含め、閣内
では誰とも親しい関係をもたなかった。マーシャル将軍やアルフレッド・
P・スローンも、仕事の上では誰とも親しくしていなかった。
彼らはみな心の温かい人たちだった。友情を育む能力に恵まれた人たち
だった。しかし友情は仕事と切り離す必要のあることを知っていた。
彼らは好きかどうかは仕事に無関係のないことであるとした。
孤高を保つことによって多様性に富む強力なチームをつくっていた。
もちろん仕事を人のほうに合わざるをえないという例外的なケースもある。
例えば非属人的な組織構造に固執したスローンさえ、初期の頃のGMの
エンジニアリング部門はチャールズ・F・ケッタリングという偉大な
発明家を中心組織した。ローズヴェルトも、組織論のあらゆる原則に
反して病弱のハリー・ホプキンスの貢献に頼った。
しかしこれらは例外である。尋常ならざることを卓越した能力をもって
行う例外的な能力の人についてだけ認められるものである。
それでは、いかにして、人に合うように仕事を設計するという陥穽に
陥ることなく強みに基づいた人事を行うか。四つつの原則である。
● 情実
1. 個人的な利害・感情がからんで公平な取扱いができない関係や状態。
「―を交える」「―にとらわれない」「―を排する」
2. 実際のありさま。実情。
3. 偽りのない気持ち。まごころ。
「―互に相通じて怨望嫉妬の念は忽ち消散せざるを得ず」〈福沢・学問のすゝめ〉
● 孤高
俗世間から離れて、ひとり自分の志を守ること。また、そのさま。
「―を持 (じ) する」「―な(の)人」
● チャールズ・F・ケッタリング
チャールズ・フランクリン・ケタリング(Charles Franklin Kettering 、
1876年8月29日 – 1958年11月24日もしくは11月25日)は、アメリカ合衆国
オハイオ州ラウドンビル生まれの、農民、教員、メカニック、エンジニア、
科学者、発明家、社会哲学家である。
● ハリー・ホプキンス
ハリー・ロイド・ホプキンス(Harry Lloyd Hopkins、1890年8月17日 –
1946年1月29日)は、フランクリン・ルーズベルト大統領の側近で、
商務長官(1938 – 1940年)を務めた。ニューディール政策においては、
公共事業促進局を拠点に失業者の救済プログラムの作成を行った。
また、第二次世界大戦中はルーズベルトの外交顧問としてレンドリース法の
策定をはじめ、アメリカ合衆国の戦時戦略の遂行に重要な役割を担った
人物である。
● 陥穽
1. 動物などを落ち込ませる、おとしあな。「―にはまる」
2. 人をおとしいれる策略。わな。「詐欺師の仕掛けた―に陥る」
この続きは、次回に。