ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+49
(2) 必要条件を明確にする
決定が満たすべき必要条件を明確にしなければならない。
意思決定においては、決定の目的は何か、達成すべき目標は何か、満足
させるべき必要条件は何かを明らかにしなければならない。
決定が成果をあげるには必要条件を満足させなければならない。
すなわち目的を達しなければならない。
必要条件を簡潔かつ明確にするほど決定による成果はあがり、達成しようと
するものを達成する可能性が高まる。逆に、いかに優れた決定に見えよう
とも、必要条件の理解に不備があれば成果をあげられないことが確実で
ある。
必要条件は、「この問題を解決するために最低限必要なことは何か」を
考え抜くことによって明らかとなる。一九二二年にGMのトップになった
スローンも、おそらく「事業部長から権限を取り上げることによって
必要条件は満たされるか」と自問したに違いない。
彼の答えは、明確なノーだった。彼にとって問題解決の必要条件は、
むしろ事業部長たちに権限と責任をもたらせることだった。
それは、統一性や管理の確保と同じように重要だった。スローンの必要
条件は、個々の人間の祈りあいの問題ではなく、組織全体の構造の問題
として解決することを求めていた。この求めに応えたことがスローンの
解決策を永続させることになった。
必要条件を見つけることは必ずしも容易ではない。
そのうえ知的な者ならば必ず意見の一致を見るというものではない。
ある大停電にもかかわらず、翌朝あるニューヨークの新聞が朝刊を発行
できる運びとなった。『ニューヨーク・タイムズ』だった。
同紙は停電が起こるや直ちにハドソン川対岸のニュージャージー州ニュー
アークの地方夕刊紙『ニューアーク・イブニングニュース』の工場に印刷を
委託した。ところが実際には一○○万部のはずが半分しか印刷できなかった。
伝えられるところによれば、印刷に回される寸前、編集長の三人のデスクの
間でハイフンの使い方で意見が分かれ、決着に四八分間かかったという。
それは印刷時間のほぼ半分に相当した。
しかし編集長の考えでは、『ニューヨーク・タイムズ』は、アメリカ英語の
標準たるべきものであり、文法の正確さを追求すべきものだった。
この話がどこまでも正確かはわからないが、トップマネジメントがどう
考えたかは興味あるところである。だが編集長たる者の本分と目標から
すれば、それが正しい行動だったことは疑う余地がない。
彼が行うべき意思決定の必要条件は印刷部数ではなかった。
アメリカ英語の文法の大家としての『ニューヨーク・タイムズ』の無謬性に
あった。
● 無謬性(むびゅうせい)
誤りが含まれていないということ。誤りのなさ。誤りようがない、
この続きは、次回に。