ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+56
(5) フィードバックを行う
最後に、決定の基礎となった仮定を現実に照らして継続的に検証していく
ために、決定そのものの中にフィードバックを講じておかなければなら
ない。
決定を行うのは人である。人は間違いを犯す。最善を尽くしたとしても
必ずしも最高の決定を行えるわけではない、最善の決定といえども間違って
いる可能性はある。
そのうえ大きな成果をあげた決定もやがては陳腐化する。
前述のヴェイルやスローンの意思決定でさえ例外とはなりえなかった。
二人の創造力と決断にもかかわらず、彼らの意思決定のうち今日にいた
るも有効でありかつ当時と同じ形で生きているものは、ベルの事業は
サービスであるというヴェイルの決定だけである。
例えば、AT&T普通株の性格は、一九五○年代に中産階級の資金を集めた
年金基金や投資信託が機関投資家として登場するに伴って、大幅に変わら
ざるをえなくなった。また、確かにベル研究所は今日も強大な地位を維持
している。しかし今日ではいかなる通信会社であろうとも、自らが必要と
する科学技術のすべてを自給することは不可能になっている。
同時に、科学技術の発展によって、AT&Tの歴史上初めて電話以外の通信
手段が電話に対する深刻な競争相手となる可能性が高まっている。
情報やデータ通信の世界では、いかなる通信媒体も独占的な地位はもち
ろん、支配的な地位さえ単独では維持することが困難になっている。
また、公的規制が電気通信事業の民営維持のために必要であるとはいえ、
ヴェイルがあれほど力を入れた州当局による規制は、通信の国民経済的
さらに国際的な広がりという現実のもとにおいては不適切なものとなり
つつある。しかも、今日連邦政府が課している規制はベルが実現したもの
ではない。むしろヴェイルが避けていた引き延ばし戦術によってベルが
抵抗してきたものである。
スローンのつくったGMの分権制も維持はされているものの、いずれ再検討
しなければならなくなることは明らかである。
すでにスローンの原理はあまりにしばしば変更され改定されてきている。
そのためもともとの組織原理がわからなくなるほどに曖昧になっている。
事実それぞれ自立した存在だった事業部も、今日では完全に自立している
わけではない。しかもシボレーからキャデラックにいたる各事業部の製品は、
スローンが最初に考えたような形では価格帯を代表するものではなくなって
いる。
そして何よりも、スローンが設計したのはアメリカ企業だった。
その後多くの海外子会社を手にしたとはいえ、GMの組織や経営構造は
あくまでもアメリカ企業のそれだった。しかしもはやGMは明らかに
多国籍企業である。その大きな機会は国外、特にヨーロッパにある。
今やGMは多国籍企業としての原理や組織を見出して初めて生き延び繁栄
することができる。
GMはスローンが一九二二年に行った仕事を再び行われなければならない。
特にひとたび不況に直面するや、それらの仕事は直ちに差し迫った課題と
なるに違いない。しかも思い切った変革を行わなければ、まさにその
スローンの設計そのものがGMにとっての足かせとなり成功への障害と
なるに違いない。
● 検証
実際に物事に当たって調べ、仮説などを証明すること。
「理論の正しさを―する」
● フィードバック(feedback)
1. 物事への反応や結果をみて、改良・調整を加えること。
2. 顧客や視聴者など製品・サービスの利用者からの反応・意見・評価。
また、そうした情報を関係者に伝えること。「現場からの―を設計に
反映させる」「アンケートの結果を担当部門に―する」
● 自給
必要な物資を、他に求めるのでなく、自力で獲得してまかなうこと。
「穀物を―する」
● 足かせ
自由な行動を妨げるもの。足手まといになるもの。
「家族が行動の―となる」
この続きは、次回に。