ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+76
□ 現代社会に不可欠なもの
エグゼクティブの成果をあげる能力が、現代社会を経済的に生産的な
ものとし社会的に発展しうるものとする。
本書が繰り返し述べてきたように、知識労働者は先進国において急速に
主たる資源となりつつある。しかも知識労働者は主たる投資ともなって
いる。なぜなら教育こそ、今日あらゆる投資のうち最も高価だからである。
そして彼ら知識労働者は、あらゆるところでますます大きなコストセンターと
なりつつある。
したがって知識労働者の生産性の向上は、先進工業社会に特有の経済的
ニーズである。先進工業国の肉体労働者は、そのコストにおいて発展途上国の
肉体労働者よりも競争力がない。それゆえ知識労働者の生産性のみが、
低賃金の発展途上国との競争下で先進工業国における高度の生活水準を
可能とする。
しかしいまのところ、先進工業国の知識労働者の生産性について自信を
もちうるのは、超楽観主義者だけである。
第二次世界大戦後、肉体労働から知識労働へ重心が大幅に移行したにも
かかわらず、これまでのところ、知識労働者の生産性に劇的な成果は生じて
いない。経済的な成果を測定する二つの基準である生産性と利益率の
いずれも際立った進歩を示していない。第二次世界大戦後における先進
工業国の経済成長がいかに大きく印象的だったとしても、知識労働者の
生産性の向上という仕事はまだ行われていない。
ここにおいて問題の鍵はエグゼクティブの成果をあげる能力である。
なぜならば、エグゼクティブこそ決定的な知識労働者だからである。
彼らの水準、基準、規律が彼らのまわりのほかの知識労働者の動機、
方向づけ、献身を大きく左右する。
さらに重要な問題は、エグゼクティブの成果をあげる能力に対する社会的な
ニーズである。そして、現代社会の絆と強さは、ますます知識労働者の
心理的社会的欲求と、社会の目標とをいかに合致させるかにかかっている。
この続きは、次回に。