お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊴

(8) 仮の特殊製品

 

これは正確にいうならば、妙な名だが「特殊製品である必要のない特殊

製品」である。すなわち主力製品として成功するかもしれないにもかか

わらず、特殊製品として扱っている製品である。

アメリカでは長年の間、仕様がわずかしか違わない特殊な小型モーターが

何種類も設計され生産されていた。その結果、小型モーターの伝統的な

分類が役に立たなくなるほど際限のない多様化が行われていた。

標準化はなかなか行われなかった。

しかし、ついに一○年前小型モーターについて標準化を行ったところ、

それまでの際限なく多様な小型モーターも五、六種類にまとめられ、

それぞれが量産品となった。

仮の特殊製品の兆候は、顧客や市場の一つのニーズに応えることのできる

製品が六種類もあるという状況である。六種類の特殊製品のいずれで

あっても顧客の同一のニーズを満足させられるのであれば、通常の量産品と

なる可能性が秘められているということである。

もう一つの兆候は、それらの特殊製品のそれぞれが別々の特定の目的の

ための特殊な製品であるふりをしていながら、実は技術進歩があったとき、

その同じ新技術をそれらの特殊製品すべてに対しそのまま適用できると

いう状況である。

表5の製品FとC係の特殊製品かもしれない。少なくても純利益から判断

するならば、生産的特殊製品ではない。

しかし、業績が不十分であるというだけでは、仮の特殊製品であるとは

限らない。主力製品となるには、売上げや利益や成長のための本当の機会が

なければならない。そうであれば、次に述べるような単なる非生産的

特殊製品にすぎない。

 

(9) 非生産的特殊製品

 

これは市場において経済的な機能を果たしていない特殊製品である。

顧客が代価を払おうとしない無意味な差別化を行っている製品である。

ある科学機器メーカーの自慢の顕微鏡が非生産的特殊製品だった。

このメーカーでは、余分のコストをかけて、その特殊製品を標準仕様

製品とは別に生産していた。しかし性能はあまり違わなかった。

それどころか、クレームの四分の三がその特殊製品に対してであり、

常に特別のアフターサービスが必要とされていた。

その顕微鏡は、クレームが多いために特別のアフターサービス体制を

必要とする点においてのみ、標準製品と違っていた。

しかしそのメーカーでは、コストがかかり生産が難しいと言う理由だけ

から、その特殊製品が高級品であるという錯覚をもっていた。

顧客にそのような錯覚はなかった。

非生産的特殊製品を発見することは容易である。売れないために利益が

上がらない。顧客の気に入られないために、苦情が多くアフターサービスの

ための訪問が多い。しかし、そのような特殊製品は、常に「この製品が

なければ、量産品の注文が来ない」などと弁護される。事実そのような

場合もあろう。しかしそうであるならば、それは独立した製品ではなく

セット物の販売用製品にすぎない。しかも、そのような主張には根拠の

ないこともほうが多い。実際には標準製品を買おうとしている顧客に対し、

「こういう機能がついていますよ」といって押しつけていることが多い。

イギリスのある金属製品メーカーでは、売上の二○%にすぎないある特殊

製品がコスト全体の七○%を占めていた。営業部門は、その特殊製品が

主力製品に顧客を惹きつけておくうえで必要な製品であるとしていた。

しかしやがて、主力製品と同種の製品が若干安い価格で大陸から輸入

されるようになり、顧客をとられてしまった。

このイギリスのメーカーは、主力製品に高い値をつけていたにもかかわらず、

特殊製品のコストのために赤字になっていた。これに対し、新しくやって

来た大陸のメーカーは、価格を安くしてなお大きな利益をあげた。

主力製品の顧客が、本当に特殊製品を買っているかどうかを調べなければ

ならない。通常は、ごく限られた顧客が特殊製品を買っているにすぎない。

肝心の主力量産品の顧客のほとんどは特殊製品など買ってはいない。

非生産的特殊製品は利益流失の原因となる。しかも不相応に資源を使って

いる。なぜならば、常に改善とモデル変更を行わざるをえないからである。

新製品のふりをしなければ市場にとどまれないからである。その結果、

この種の製品は苦情も多くアフターサービスも多くなっている。

しかし、そのような特殊製品よりも危険であり、どこにも見られ、排除の

きわめて難しいものが次の製品である。

 

この続きは、次回に。

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