P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-31
ある小さな特殊化学品メーカーは、市場と知識の分類を変え、その結果
製品についての診断を変え、企業戦略を変えて成功した。
その同族会社では、ほとんどあらゆる種類の染料を生産している大手化学品
メーカーを主たる顧客として、繊維製品、特に綿製品の染料に必要な中間
原料を生産していた。しかし、合成繊維が繊維の主流となるにつれ、市場と
利益の縮小を感じ始めていた。
そこでマーケティング分析を行い、それまでの「わが社の市場はどこに
あるか」ではなく、「そもそも市場はどこにあるか」との問いを発した。
この問いから、綿製品および綿製品用染料の市場は縮小などしていない
ことが明らかになった。それどころか、合成繊維の市場よりも急速に拡大
しつつあった。
ただしそれは、先進工業国ではなく中南米、インド、パキスタン、アフリカ、
香港においてだった。そしてそれらの国が染料を輸入していた。
すなわちこのメーカーの製品は間違った製品ではなかった。
間違った市場に向けられていたにすぎなかった。
いまではこのメーカーは国際的な企業になっている。イスラエル、台湾、
ナイジェリア、インドなどの途上国において染料の中間原料をつくって
いる。いずれの国においても、主たる資本リスクは現地の人たちが負って
いる。同社は長期契約のものに、技術的な知識とマネジメントを供給し、
技術指導料と資本参加による利益を得ている。
一方、知識分析の結果、アメリカ国内では事業内容を変えている。
染料の中間原料を生産はしているが、染料の生産設備の設計と製造に
おいて急速に事業を拡大している。それこそまさに、同社のもつ染料の
生産設備の設計と製造についての知識を十二分に利用する事業だった。
いずれにせよ、知識分析を行うまでは、自社がそのような能力をもち特に
途上国にとっての貴重な資産をもっているなどいうことはまったく認識
していなかった。
この続きは、次回に。