「道をひらく」松下幸之助 ⑮
・雨が降れば
雨が降れば傘をさす。傘がなければ風呂敷でもかぶる。それもなければ
ぬれるしか仕方がない。
雨の日に傘がないのは、天気のときに油断して、その用意をしなかった
からだ。雨にぬれて、はじめて傘の必要を知る。
そして次の雨にはぬれないように考える。雨があがれば、何をおいても
傘の用意をしようと決意する。これもやはり、人生の一つの教えである。
わかりきったことながら、世の中にはそして人生には、晴れの日もあれば
雨の日もある。
好調の時もあれば、不調の時もある。にもかかわらず、晴れの日が少し
つづくと、つい雨の日を忘れがちになる。好調の波がつづくと、つい
ゆきすぎる。油断する。これも、人間の一つの姿であろうか。
このことをいましめて昔の人は「治にいて乱を忘れず」と教えた。
仕事にしても何にしても、この道理はやはり一つである。
雨が降れば傘をさそう。傘がなければ、一度はぬれるのもしかたがない。
ただ、雨があがるのを待って、二度と再び雨にぬれない用意だけは
心がけたい。
雨の傘、仕事の傘、人生の傘、いずれにしても傘は大事なものである。
● 治にいて乱を忘れず
平穏無事の世の中にいても、つねに乱世のことを考えて、準備をして
おかなければならぬという教訓。
この続きは、次回に。