「道をひらく」松下幸之助 ⑭
・人事をつくして
「人事をつくして天命を待つ」ということばがある。まことに味わい
深いことばである。私心にとらわれることなく、人としてなしうる
かぎりの力をつくして、そのうえで、静かに起こってくる事態を待つ。
それは期待どおりのことであるかもしれないし、期待にそむくことで
あるかもしれない。
しかしいずれにしても、それはわが力を越えたものであり、人事をつく
したかぎりにおいては、うろたえず、あわてず、心静かにその事態を
迎えねばならない。
そのなかからまた次の新しい道がひらてくるであろう。
こうした心境の尊さを人みなが知り、その境地をかみしめつつ、それ
ぞれの人が、それぞれのつとめをつくしたならば、この世の中は、
もっと静かになるかもしれない。
天命とは、これだけのことをつくしたから、これだけの結果があたえ
られるという、そんな計算の成り立つものではない。まして、私心多く
なすべき人事もつくさずに、いたずらに都合よき成果のみを期待する
のは、天命を知らざることはなはだしいといわねばなるまい。
めまぐるしい利害の波の日々の中ではあるけれども、時におたがいに
三省してみたいものである。
● 人事をつくして天命を待つ
『人事を尽くして天命を待つ』とは『じんじをつくしててんめいを
まつ』と読み、人間の能力で可能な限りの努力をしたら、あとは
焦らず静かに結果を天の意思に任せる、という意味があります。
全力を尽くしたのであれば事の成否は人知を越えた天任せなのだから、
「どんな結果になろうとも後悔はない」という心境を表す言葉としても
使用されます。2021/06/23
● 天命
1. 天の命令。天が人間に与えた使命。「人事を尽くして―を待つ」
2. 人の力で変えることのできない運命。宿命。
3. 天の定めた寿命。天寿。「―を全うする」「―が尽きる」
4. 天の与える罰。天罰。
「―とはいいながら富五郎はばたばた苦しみまして」
● 三省(さんせい)
《「論語」学而の「吾日に吾が身を三省す。人の為に謀りて忠なら
ざるか、朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝えしかと」から》
毎日三度反省すること。1日に何度も自分の言行をふりかえってみて、
過失のないようにすること。さんしょう。
この続きは、次回に。