「道をひらく」松下幸之助 ⑬
・心の鏡
自分の身なりを正すためには、人はまず鏡の前に立つ。鏡は正直である。
ありのままの姿を、ありのままにそこに映し出す。自分のネクタイは
曲がっていないと、がんこに言い張る人でも、鏡の前にたてば、その
曲直(きょくちょく)は一目りょうぜんである。だから人は、その誤ちを
みとめ、これを直す。
身なりは鏡で正せるとしても、心のゆがみまでも映し出しはしない。
だから、人はとかく、自分の考えやふるまいの誤りが自覚しにくい。
心の鏡がないのだから、ムリもないといえばそれまでだが、けれど
求める心、謙虚な心さえあれば、心の鏡は随所にある。
自分の周囲にある物、いる人、これすべて、わが心の反映である。
わが心の鏡である。すべての物がわが心を映し、すべての人が、わが
心につながっているのである。
古(いにしえ)の聖賢(せいけん)は「まず自分の目から梁(はり)を取り
のけよ」と教えた。もうすこし、周囲をよく見たい。
もうすこし、周囲の人の声に耳を傾けたい。この謙虚な心、素直な心が
あれば、人も物もみなわが心の鏡として、自分の考え、自分のふるまいの
正邪(せいじゃ)が、そこにありのままに映し出されてくるであろう。
● 曲直(きょくちょく)
不正なことと正しいこと。正邪。「理非―をただす」
● 聖賢(せいけん)
聖人と賢人。また、知識・人格にすぐれた人物。「―の道に学ぶ」
● 己が目より梁を取り除け(おのれがめよりうつばりをとりのぞけ)
邪念や偏見を棄てて、偽りのない真実を見る目を持つことの大切さを
述べたことば。
この続きは、次回に。