「道をひらく」松下幸之助 ㉑
・サービスする心
与え与えられるのが、この世の理法である。すなわち、自分の持てる
ものを他に与えることによって、それにふさわしいものを他から受ける
のである。これで世の中は成り立っている。
だから、多く受けたいと思えば多く与えればよいのであって、充分に
与えもしないで、多く受けたいと思うのが、虫のいい考えというもので、
こんな人ばかりだと、世の中は繁栄しない。
与えるというのは、わかりやすくいえば、サービスするということで
ある。自分の持っているもので、世の中の人びとに精いっぱいのサー
ビスをすることである。頭のいい人は頭で、力のある人は力で、腕の
いい人は腕で、優しい人は優しさで、そして学者は学問で、商人は商売で——-。
どんな人でも、探し出してくれば、その人だけに与えられている尊い
天分というものがある。その天分で、世の中にサービスをすればよい
のである。サービスのいい社会は、みんなが多く与えあっている社会で、
だからみんなが身も心もゆたかになる。
おたがいに繁栄の社会を生み出すために、自分の持てるもので、精いっ
ぱいのサービスをしあいたいものである。
● 理法
道理にかなった法則。「自然の―に従う」
● 天分
1. 生まれつきの性質・才能。「―に恵まれる」「―を発揮する」
2. 天から与えられた身分・職分。「―をわきまえる」
・長所と短所
この世の中は持ちつ持たれつ、人と人との協同生活によって、仕事が
成り立っている。暮らしが成り立っている。
この協同生活を円滑に進めるためには、いろいろの心くばりが必要だ
けれども、なかでも大事なことは、おたがいにまわりの人の長所と欠点
とを、素直な心でよく理解しておくということである。
そしてその長所を、できるかぎり発揮させてあげるように、またその
短所をできるかぎり補ってあげるように、暖かい心で最善の心くばりを
するということである。
神さまではないのだから、全知全能を人間に求めるのは愚の限りである。
人に求めるほうも愚なら、いささかのうぬぼれにみずから心おごる姿も、
また愚である。人を助けて己の仕事が成り立ち、また人に助けられて
己の仕事が円滑に運んでいるのである。この理解と心くばりがなければ、
百万の人も単につのつき合わした烏合の衆にすぎないであろう。
長所と短所と—–それは人間のいわば一つの宿命である。
その宿命を繁栄に結びつけるのも貧困に結びつけるのも、つまりは
おたがいの心くばり一つにかかっているのではなかろうか。
● 全知全能
知らないことは一つもなく、できないことは何もないということ。
すべてのことを知り尽くし、行える完全無欠の能力のこと。
▽「知」は物事の本質を見通す力。「能」は物事を成し遂げる力。
神の力を「全知全能」とたとえる。「知」は「智」とも書く。
● 烏合の衆
規律も統一もなく寄り集まった群衆。
この続きは、次回に。