「道をひらく」松下幸之助 ㊲
・仕事というものは
仕事というものは勝負である。一刻一瞬が勝負である。だがおたがいに、
勝負する気迫をもって、日々の仕事をすすめているかどうか。
まず普通の仕事ならば、ちょっとした怠りや失敗があったとしても、
別に命を失うというほどのことはない。それでも、ともかく日は暮れて、
その日の仕事はまず終わる。だから、つい気がゆるむ。油断する。
きょうはきのうのくりかえし、あすもまた同じで、別段とくに変わった
こともなし。
しかし、これではいい知恵はうかばない。創意も生まれなければ、
くふうも生まれない。そして何の緊張もないかわりに、何の喜びも
ないということになる。
平穏無事なときには、これでも日はすごせるが、しかしいつもそうは
まいらない。わが国の情勢は、世界の動きとともに今や刻々と変わり
つつある。一刻の油断もならぬ状態におかれている。このときにこそ、
勝負する大勇気をもって仕事にあたらねば、それこそ真の繁栄は生まれ
ないであろう。
仕事を勝負と心得る人と心得ない人とのちがいが、ハッキリとあらわ
れてくるときではなかろうか。
・忍耐の徳
何ごとにおいても辛抱強さというものが大事だが、近ごろはどうもこの
忍耐の美徳というものがおろそかにされがちで、ちょっとした困難にも
すぐ参って悲鳴をあげがちである。そして、事志とちがった時には、
それをこらえてさらに精進をし、さらに力を蓄えるという気迫がまるで
乏しくなり、そのことの責任はすべて他にありとして、もっぱら人を
ののしり、社会を責める。
これは例えば、商売で品物が売れないのは、すべて世間が悪いからだと
言うのと同じことで、これでは世間は誰も相手にしてくれないであろう。
買うに足る品物であり、買って気持ちのよいサービスでなければ、人は
誰も買わないのである。
だから売れなければまずみずからを反省し、じっと辛抱をしてさらに
精進努力をつづけ、人びとに喜んで買っていただけるだけの実力という
ものを、養わなければならないのである。
車の心棒が弱ければ、すぐに折れてガタガタになる。人間も辛抱が
なければ、すぐに悲鳴をあげてグラグラになる。
おたがいに忍耐を一つの美徳として、辛抱強い働きをつづけてゆきたい
ものである。
ただ一人だけの 小さな幸せに満足することなく
おたがいに志を もたねばならない
長い伝統に培われた 日本人本来の高い精神と
私たちが今日までたくわえてきた自立力とを
いまこそ 新たな時代にふさわしい 新たな姿で
政治や経済 教育や文化に 正しくよみがえらせたい
日本を いきいきとした民主主義の国にするために
この世界に より大きな幸せをもたらすために
この続きは、次回に。