「道をひらく」松下幸之助 ㊺
・しかも早く
ものごとを、ていねいに、念入りに、点検しつくしたうえにもさらに
点検して、万全のスキなく仕上げるということは、これはいかなる場合
にも大事である。 小事をおろそかにして、大事はなしとげられない。
どんな小事にでも、いつも綿密にして念入りな心くばりが求められる
のである。
しかし、ものごとを念入りにやったがために、それだけよけいに時間
がかかったというのでは、これはほんとうに事を成したとはいえない
であろう。むかしの名人芸では、時は二の次、それよりも万全のスキ
なき仕上げを誇ったのである。
徳川時代の悠長な時代ならば、それも心のこもったものとして、人から
喜ばれもしようが、今日は、時は金なりの時代である。一刻一秒が尊い
のである。だから念入りな心くばりがあって、しかもそれが今までより
もさらに早くできるというのでなければ、ほんとうに事を成したとは
いえないし、またほんとうに人に喜ばれもしないのである。
早いけれども雑だというのもいけないし、ていねいだがおそいという
のもいけない。念入りに、しかも早くというのが、今日の名人芸なの
である。
● 小事
● 大事
・けじめが大事
朝起きて顔を洗ったら、まず仏前にすわって手を合わす。一家そろって
手を合わす。たとえ線香の一本でもよい。これで朝のけじめがつく。
夜ねるときも同じこと。夜は夜で、キチンとけじめをつけねばなるまい。
別に形にとらわれる必要もないけれど、一日のけじめはこんな態度から
生まれてくる。何ごとをするにも、けじめがいちばん大切で、けじめの
ない暮らしはだらしがない。暮らしがだらしなければ働けない。
よい知恵も生まれないし、ものも失う。
商売も同じこと。経営も同じこと。けじめをつけない経営は、いつかは
どこかで破綻する。景気のよいときはまだよいが、不景気になればたち
まちくずれる。立派な土手も蟻の穴からくずれるように、大きな商売も、
ちょっとしたけじめのゆるみからくずれる。だからつねひごろから、
小さいことにもけじめをつけて、キチンとした心がけを持ちたいもの。
そのためには何と言っても躾が大事。平生から、しっかりした躾を身に
つけておかなければならない。自分の身のためにも、世の中に迷惑を
かけないためにも。
おたがいに、躾を身につけて、けじめのある暮らしを営みたい。
● 平生
ふだん。いつも。つね日ごろ。副詞的にも用いる。
「―とは態度が異なる」
この続きは、次回に。