「道をひらく」松下幸之助 ㊿+30
・体験の上に
ここに非常な水泳の名人がいるとする。そしてこの名人から、いかに
すれば水泳が上達するかという講義をきくとする。
かりに三年間、休まず怠らず、微に入り細にわたって懇切ていねいに
講義を受け、水泳の理を教えられ、泳ぎの心がけをきかされる。
それでめでたく卒業のゆるしを得たとする。だがはたして、それだけで
実際に直ちに泳ぎができるであろうか。
いかに成績優秀な生徒でも、それだけですぐさま水に放りこまれたら
どうなるか。たちまちブクブク疑いなし。講義をきくだけでは泳げない
のである。
やはり実際に、この身体を水につけねばならない。そして涙のこぼれ
るような不覚の水も飲まねばならない。ときには、死ぬほどの思いも
しなければならないであろう。
そうしてこそ水に浮けるし、泳ぎも身につく。体験の尊さはここにある
わけである。
教えの手引きは、この体験の上に生かされて、はじめてその光を放つ。
単に教えをきくだけで、何事もなしうるような錯覚をつつしみたいと
思う。
● 微に入り細に入り
「微に入り細に入り」の意味は、「ものごとの非常に細かい部分に
まで関わること」です。
「微」も「細」も、非常に小さいことを表す言葉で、同じ意味を重ね
て強調しています。
● 懇切丁寧
細かいところまで注意が行き届いていて、とても手厚くて親切なこと。
また、そのさま。 「懇切」は、とても手厚くて親切なこと。
「丁寧」は、細かいところまで行き届いているさま。
この続きは、次回に。