続「道をひらく」松下幸之助 ⑤
・くらべる
生まれたときは、すき通るような黒い瞳に、天上天下何ものにもかえ
がたい宝のしずくがあふれていたのに、日とともに年とともに、まわり
のもろもろとくらべられて、誰にくらべてかわいいとか、かしこいとか、
えらいとかえらくないとか、くらべにくらべられる日々がつづいていく。
幼き日でも、学校でも、社会に出ても、一刻もくらべられないときは
ないのである。
そんななかで、知らず知らずのうちに、他とくらべた自分だけが自分
と思いこんで、おごり、たかぶり、なげき、沈む。天上天下、くらべる
にもくらべようのないあの純粋な自分だけの宝のしずくをどこに見失った
のか。
くらべつつ歩むのは、一つの進歩でもある。しかし、くらべようのない
自分を深く見つめて、そこにドッシリ腰をすえて歩むのも、貴重な進歩
を生む。
お互いにうろたえ傷つけ合うことのない人生を歩むために、せめて年の
はじめだけでも、あの純粋な天与の自分を思い起こす静思の時を持ち
たい。
● 天上天下
● 静思
静かに思うこと。静かに思索すること。静想。
この続きは、次回に。