続「道をひらく」松下幸之助 ㉖
○ 皐月(さつき)
● 若鳥よ
若き羽根を力の限りにひろげて、未知の世界へのまろびつころびつの
旅立ち。巣の外には、青空につづく果てしなき自由というものがある
のだ。
そこでたとえきびしい風に吹きさらされようと、降りやまぬ雨にしと
どぬれようと、巣の外の自由のなかでこそ、みずから鍛えられ、育って
いくと若鳥は信じる。覚悟する。
しかし、住みなれた親の巣のぬくもりからとび出ようとする一抹の頼り
なさ、心細さが今さらに身にせまる。だからみずからの非力のもどか
しさに、チイチイと精いっぱいの声を張りあげる。
親鳥はそんな若鳥にハラハラしつつも、自分が巣立っていった、かつ
てのあの日を思い出す。そして無量の思いのなかで、わが若鳥に祝福を
与える。
鳥も人間も、いつかは巣立ちのときがくる。ひとりだちのときがくる。
そのひとりだちのつみ重ねが、新しい時代を次々と生み出していくの
である。
若鳥よ。烈風に身をかがめるな。はばたけ。まろびつころびつ限りなく
はばたけ。
● まろびつ
倒れたりころがったり。 特に、そのような様子で、あわてて走る
さまをいう。
● しとど
● 一抹
「一抹」は、元来は筆で一回さっとなすりつけた量をいう。
「一抹の…」の形で、不安、悲しみ、寂しさなどが心をかすめる
暗い思いにいうことが多い。
● 烈風
きわめて激しい風。
この続きは、次回に。