続「道をひらく」松下幸之助 ㊿+9
● りくつ
もうりくつは言うまい。りくつのやりとりの空しさが身にしみる。
ほんとうに心から、こんこんとふき出してくるような、そんな言葉が
口から出てこないものか。
あれやこれやと頭でこねくりまわして、つじつまの合わないところは、
手前勝手な言い分でつなぎ合わせて、それで相手にわかったかと問う
てみても、そこには白々しさが残るだけである。
これは人間同士の会話ではない。
少々つじつまが合わなくてもよい。りくつに合わなくてもよい。
そんなことにとらわれるよりも、人を心から愛し、敬し、そしていた
わり合う素直な思いのままに語り合えないものか。トツトツとした語り
でもよい。
大事なことは、りくつのやりとりではない。心が通じ合うことである。
そしてそこに、お互いににじみ出るような信頼感が生まれ、お互いに
助け合って生きていく力がわきおこり、人間として生きることの幸せを
味わうことである。
できるはずである。相手がどうあろうと自分にはできるはずである。
そう信じたい。
■ りくつ【理屈/理窟】
1. 物事の筋道。道理。「―に合わない」「―どおりに物事が運ぶ」
へりくつ。「―をこねる」
■ 敬する
うやまう。尊敬する。
「何事も自分より上手 (うわて) と―・して居ったおとよに対し」
〈左千夫・春の潮〉
この続きは、次回に。