Think clearly シンク・クリアリー ③
3. 大事な決断をするときは、十分な選択肢を検討しよう—最初に「全体図」を把握する
□ あなたが「秘書」をひとり採用するとしたら?
数学者のあいだで「秘書問題」として知られる命題である。驚くべきことに、この秘書
問題の適切な解法は、たったひとつしかない。
まず、「最初の三七人」は、面接はしても全員不採用にして、ひとまずその三七人の中
でもっとも優秀な女性のレベルを把握する。そしてその後も面接を続け、それまでの
三七人のうちもっとも優秀だった人のレベルを上回った最初の応募者を採用するのだ。
この方法をとれば、優秀な秘書を採用できる確率は非常に高くなる。
「三七」という数字の根拠は何だろうか?
この三七とは、応募者数である一○○を数学定数e(=2.718)で割って求めた数である。
応募者が五○人だった場合は、最初の一八人(50÷e)を不採用にし、その一八のうち
もっとも優秀な人を上回った最初の応募者を採用すればいいということになる。
□ 短期間にできるだけたくさんの選択肢を試す
伝説的な投資家のウォーレン・パフェットも「明らかに間違うよりは、おおむね正しい
方がいい」と言っている。
私たちも人生において大事な決断を下すときには、パフェットが投資の決断をするとき
のこの姿勢をまねたほうがいい。
重要なことを決めるときに、「どのくらいいろいろなことを試してみてから、最終決定
を下すべきか」その指針を示してくれるのだ。
数多のスポーツや作家の中からお気に入りを見つけ出したり、人生のパートナーや住む
場所や楽器や夏休みを過ごす場所を選び出したり、自分に最適なキャリアや職業や専門
分野を決めたりするときには、まず短期間にたくさんの選択肢を試してみたほうがいい。
興味があるものだけに限らず、できるだけたくさんのものを試してから、最終的な判断
を下すのだ。どんな選択肢があるか、全体像をつかむ前にひとつを選び取ってしまうの
では、早計すぎる。
□ 私たちが「早い段階」で決断を下してしまう理由
ところで私たちはなぜ、「早い段階」で決断を下してしまいがちなのだろう?
この忍耐力のなさはどこから来るのだろう?
それは、いろいろなサンプルを試すには「労力」がいるからだ。
いろいろなことを試そうと思えば、手間がかかる。その手間を省きたいのだ。
おまけに、新しいことに挑戦するのは面倒だ。若いときに少しでもかかわったことの
ある分野に、そのままとどまっていたほうがラクでいい。もちろん、それでも無難に
キャリアを積み重ねることはできるだろう。
だが、もう少し新しいことに意欲的になっていたら、ほかの分野でもキャリアを築けた
可能性は大いにあっただろう。ひょっとしたらいまよりもっと成功して、もっと楽しく
仕事ができていたかもしれないのだ。
早計に決断してしまいがちな理由は、もうひとつある。決断を保留にしたままいろいろ
なことを試すより、ひとつのテーマを終えてから次のテーマに取りかかったほうが、頭の
中の整理ができて心地がいいからだ。
あまり重要でない決断をするときにはそれでもいいが、その方法では最適な選択が難しく
なるので、重要な決断の際にはあまりいい結果にはつながらない。
□ サンプル数が少ないと、最適なものを見つけ出せない
統計学的な言い方をすれば、私たちが抽出するサンプル数は少なすぎて全体を代表して
いないにもかかわらず、それだけの情報をもとに性急に決断を下してしまう。
現実を反映しない間違ったイメージを自分の中につくりあげ、広い世界のほんの二、三
種類のサンプルを試しただけで、人生のパートナーや、理想の仕事や、最適な居住地を
見つけられると信じている。
世界は私たちが思っているよりもずっと広く、ずっと多彩で、いろいろなものを含んで
いる。若いうちは、できるだけたくさんのサンプルを試すようにしよう。
大人になってからの最初の数年間で重要なのは、お金を稼ぐことでもキャリアを積むこ
とでもない。「人生の全体図を把握すること」だ。
常にオープンな姿勢を崩さず、偶然が与えてくれたものはすべて試すようにしよう。
本もたくさん読んだほうがいい。小説を読めばすばらしい人生を類似体験できる。
ものごととの向き合い方を変えるのは、年をとってからでいい。
そうして年をとったら、かかわることをぐっと絞り込もう。その頃にはあなたはもう、
自分の好みをしっかりと把握できているはずだから。
この続きは、次回に。
2024年9月16日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美