書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑫
・新たな資源投入を必要としない行動から着手する
「手中の鳥」と呼ばれる手持ちの手段(資源)に基づいて着手することは、許容可能な
損失の範囲で行動することも整合的です。もしあなたが、まずは自分がすでに持って
いる手持ち手段(資源)と余剰資源だけを活用して行動を始めるならば、新たな資源投入
が不要な分、損失可能性は最小化されるでしょう。
第2章でご紹介したエスティー・ローダーの事例でも、クリームを売るための理想的な
方法としては、直営の店舗を持ったり、広告を出稿したりすることも考えられますが、
彼女がまず実行したのは、美容室の強力を得て、ターゲット顧客の女性たちにハンド
マッサージを提供するという、ほとんど資金を必要としない行動でした。
こうした行動は、結果としてうまく機能しなくとも、起業家にとって大きな損失は生じ
させず、逆に成功した場合の利益獲得可能を高めてくれます。
・できるだけ一歩の幅を小さくする
それでも、いずれは設備投資など、何らかの避けられない投資が発生することもあるで
しょう。その際にもできるだけ一歩の幅を小さくできないか、と発想することが重要です。
「固定費を変動化できないか」と考えることは、そうした発想の1つといえます。
たとえば製造業であれば、ものづくりのための機械の購入や工場の建設、サービス業で
あれば店舗の開業など、最初に大きな固定費をかけなければ事業に着手できない、と
考える人もいるかもしれませんが、成果が不確実ななかで、そうした投資が許容可能で
ない損失につながる恐れがあるならば、なるべく避けるべきだといえます。設備を自ら
所有するかわりに、たとえ短期的には割高でもリースで利用できるのであれば、うまく
いかなかった場合の損失可能はむしろ小さくすることができます。
その際に、余剰資源の活用と組み合わせて考えることで、より費用を抑える工夫もでき
るかもしれません。たとえば、現在必要とする製造設備をすでに所有している企業が
あり、さらにそれが稼働していない時間にだけ使わせてもらうことができるのであれ
ば、より低いコストで設備を借りることができるかもしれません。
・ 新たな資源投入が必要となるタイミングを延期する
また、どうしても新たに調達が必要な資源でも、それに対する支払いのタイミングを
先延ばしすることができれば、事業に着手する時点で必要な資源をより小さくすること
ができるでしょう。たとえば、継続的に注文を行うという条件で、原材料や商品の仕入
れ先に対して交渉を行い、支払いサイトを長く設定することができるのならば、当面
必要な手持ち資金はより小さくて済みます。また、早い段階で製品ラインや組織体制を
拡張するのではなく、まずは限られた範囲で成果を生み出すことに集中し、本当に必要
になったタイミングで製品の種類を増やしたり、追加的な人材を雇用したりすることも、
資源投入を延期するねという発想に含まれるでしょう。
この続きは、次回に。
2025年10月17日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美

