「新訳」 イノベーションと起業家精神 上 ⑤
2 変化を利用する者
本人が自覚しているか否かにかかわらず、あらゆる仕事が原理にもとづいて
いる。起業家精神もまた、原理に基づく。
起業家精神の原理とは、変化を当然のこと、さらにいえば健全なこととする
ことである。
・創造的破壊
○ 起業家精神とは、すでに行っていることをより上手に行うことよりも、
まったく新しいことに価値、とくに経済的な価値を見出すことである。
すなわち、起業家とは、秩序を破壊し解体する者である。
シュンペーターが明らかにしたように、起業家の責務は「創造的破壊」で
ある。
・変化を当然とする
○ 起業家は変化を当然かつ健全なものとする。
彼ら自身は、それらの変化を引き起こさない。
しかし、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する。
これが、起業家および起業家精神である。
3 起業家のリスクは小さい
・最もリスクが小さな道
○ 起業家は、その本質からして、生産性が低く成果の乏しい分野から、
生産性が高く成果の大きな分野に資源を動かす。もちろん、そこには
成功しないかもしれないというリスクはある。
しかし多少なりとも成功すれば、その成功はいかなるリスクをも相殺
して余りあるほど大きい。したがって起業家精神は、単なる最適化より
も、はるかにリスクが小さいというべきである。
イノベーションが必然であって、大きな利益が必然である分野、すなわち
イノベーションの機会がすでに存在する分野において、単なる資源の最適
化にとどまることほど、リスクの大きなことはない。
したがって論理的にいって、起業家精神こそ最もリスクが小さな道である。
起業家精神のリスクについての通念が間違いであることを教えてくれる
起業家的な組織は、われわれの身近にいくらでもある。
AT&Tのイノベーションの担い手たるベル研究所、IBM、
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、ス リーエム(3M)
起業家精神のリスクについての通念の間違いを教えてくれる個人起業家も
大勢いる。
・原理と方法
○ 起業家精神にリスクが伴うのは、一般に、起業家とされている人たちの
多くが、自分がしていることをよく理解していないからである。
つまり、方法論をもっていないのである。
彼らは初歩的な原理を知らない。このことは、とくにハイテクの起業家に
ついていえる。
そのため、とくにハイテクの起業家によるイノベーションと起業家精神は、
リスクが大きく困難なものとなっている。
ハイテクにおける発明発見によるイノベーションは、業績上のギャップや、
市場、産業、人口、社会の構造変化にもとづくイノベーション、さらには
認識の変化にもとづくイノベーションに比べて、きわめてリスクが大きい。
しかし、そのハイテク分野におけるイノベーションや起業家精神でさえ、
ベル研究所やIBMの例が示すように、リスクは必ずしも大きいわけでは
ない。ただし、そのためには体系的でなければならない。そして、何にも
まして、目的意識を伴ったイノベーションを基礎としなければならない。
この続きは、次回に。