お問い合せ

[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法②

[第13章]既存企業における起業家精神

1 起業家たること

昔から「大企業はイノベーションを生まない」という。そのように見える。たしかに、今世紀の大きなイノベーションは、既存の大企業から生まれていない。

 

○ 大企業によるイノベーション

起業家として、イノベーションの担い手として成功した大企業は多い。

既存の起業家的な企業には大企業が多い。世界中には、そのような大企業が優に100社を超える(イノベーションを行っている社会的期間のリストにも大組織がたくさんある)。

加えて、起業家的な企業の多くは、かなりの規模の中堅企業である。

企業であれ、社会的機関であれ、最も起業家精神に乏しく、最もイノベーションの体質に欠けているのは、むしろごく小さな組織である。

 

○ 障害は既存の事業

新しい事業は、成熟した既存の事業の規模や成果におよばない。つねに小さく、取るに足りず、将来性さえ確実でない(むしろ、新しいくせに大きく見えるものは、疑いの目で見るべきである。成功の確率は小さい。すでに述べたように、イノベーションに成功する者は、小さく、しかも単純にスタートする)。

イノベーションを行おうとしない企業は、歳をとり、衰弱していく。とくに今日のように急激な変化の時代、起業家の時代にあっては衰弱のスピードは急速である。ひとたび後ろ向きになってしまえば、向きを前に変えることは至難である。

起業家、イノベーターとして成功している大企業、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヘキスト、ASEA、3M、あるいは少なからざる数の中堅企業が、いかにこれを実現したかを教えてくれる。

イノベーションと起業家精神は、自然の衝動、自然の創造、自然の行動であるとしているところにある。そしてイノベーションと起業家精神が大組織で生まれないのは、組織がそれを抑えているためであるとしている。しかも、起業家としてイノベーションを行っている既存企業の少なさをもって、決定的な証拠としている。

かなりの数の中堅企業、大企業、巨大企業が起業家として、イノベーションに成功しているという事実が、イノベーションと起業家精神がいかなる企業においても実現できることを示している。ただし、そのためには意識的な努力が必要である。学ぶことが必要である。既存の起業家的な企業は、起業家精神の発揮を自らの責務とする。そのため自らに規律を課す。そのために働く。それを実践する。

 

○ 四つの条件

起業家精神を発揮するには、四つの条件がある。

第一に、イノベーションを受け入れ、変化を脅威ではなく機会とみなす組織をつくりあげる必要がある。起業家としての厳しい仕事を遂行できる組織をつくる必要がある。起業家的な環境を整えるための経営政策と具体的な方策のいくつかを実践する必要がある。

第二に、イノベーションを組織に組み込むとともに、イノベーションの成果を体系的に測定する必要がある。あるいは、少なくとも評価する必要がある。

第三に、組織、人事、報酬について、特別の措置を講じる必要がある。

第四に、いくつかのタブーを理解する必要がある。行ってはならないことを知る必要がある。

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る