[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑪
4 創業者はいかに貢献できるか
○ 創業者の問題
ベンチャー・ビジネスのマネジメントに関して重要なことを一つだけあげるとしたら、チームとしてのトップ・マネジメントの構築である。
彼らは「何をしたいか」から考える。あるいはせいぜい「自分は何に向いているか」を考える。しかし正しい問いは、「客観的に見て、今後、事業にとって何が重要か」である。
急成長しつつあるベンチャー・ビジネスでは、創業者たる起業家は、この問いを、この間に、事業が大きく伸びたとき、さらには、製品、サービス、市場、あるいは必要とする人材が大きく変わったとき、必ず自問しなければならない。
次に問う質問は、「自分の強みは何か。事業にとって必要なことのうち自分が貢献できるもの、他の抜きんでて貢献できるものは何か」である。この問いについて徹底的に考えたあて、はじめて「本当は何を行いたいか。何に価値をおいているか。残りの人生とまではいかないまでも、今後、何をしたいか」「それは事業にとって本当に必要か。基本的かつ不可欠な貢献か」を問うことができる。
○ 千差万別
ベンチャー・ビジネスが必要とすることや、創業者たる起業家が強みとすること、あるいはその起業家がしたいと考えていることは、まさに千差万別である。
○ 手を引くこともある
創業者がいかに貢献できるかという問いが、創業者とそのベンチャー・ビジネスの双方にとって、つねに完全に満足のいく結果をもたらすとはかぎらない。ときには、創業者が手を引くこともある。
○ パートナー
「自分は何が得意で何が不得意か」という問いこそ、ベンチャー・ビジネスが成功しそうになったとたんに、創業者たる起業家が直面し、徹底的に考えなければならない問題である。しかし実は、そのはるか前から考えておくべきことである。あるいは、ベンチャー・ビジネスを始める前に、すでに考えておくべきかもしれないことである。
5 第三者の助言
ベンチャー・ビジネスの創業者には、外部の独立した人たちからの客観的な助言が必要であることを教えている。成長しつつあるベンチャー・ビジネスは取締役会を必要としないかもしれない。そもそも取締役会なるものの多くは、創業者が必要とする相談相手にはならない。しかし創業者は、基本的な意思決定について話し合い、耳を傾けるべき相談相手を必要とする。そのような人間は、社内ではめったに見つからない。
○ 最大の要件
創業者の判断やその強みを問題にできる人物が必要である。第三者の立場にいる者が、創業者たる起業家に対し、質問をし、その意思決定を評価し、そして何よりも、市場志向、財務見通し、トップ・マネジメント・チームの構築など、ベンチャー・ビジネスが生き残るための条件を満たすよう絶えず迫っていく必要がある。これこそ、ベンチャー・ビジネスにおいて起業家的マネジメントを実現するための最大の要件である。
何よりも、ベンチャー・ビジネスは責任を必要とする。まさに起業家がこの責任を果たせるようにすることが、起業家的マネジメントである。
本章では、企業であれ社会的機関であれ、ハイテク、ローテク、ノーテクのいずれであれ、さらには一人の人間あるいは何人かのグループによるものであれ、また、中小企業のままでいようとするものであれ、第二のIBMたらんとするものであれ、ベンチャー・ビジネスなるものが、生き残り、成功していくうえで、決定的に重要な意味をもついくつかのかなり基本的な原理を明らかにしたつもりです。
この続きは、次回に。