お問い合せ

[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑭

〇 賢明さのリスク

創造的模倣は、市場の支配を目指すがゆえに、パソコンや時計、鎮痛剤など完結した製品、工程、サービスについての戦略に適している。ただし、総力戦の戦略ほどには大きな市場を必要としない。リスクも大きくはない。創造的模倣を行う者が仕事を始める頃には、市場はすでに明らかであり、需要もすでに生まれている。しかし、創造的模倣は鋭敏な触角、柔軟さ、市場への即応性、そして何よりも厳しい仕事と膨大な努力を必要とする。

2 起業家的柔道

 

〇 何回もの成功

日本の企業はアメリカの企業に対し、起業家的柔道によって何度も成功をおさめてきた。

日本企業、MCI、ROLM、シティバンクなどの新規参入者はすべて、戦略として起業家柔道を使った。あらゆる起業家戦略、とくに産業や市場において支配的地位の獲得を目指す戦略のうち、起業家的柔道こそ最もリスクが小さく、最も成功しやすい戦略である。

 

〇 先行者の五つの悪癖

新規参入者に起業家的柔道を使わせ、急成長させ、トップの地位を得させている先行者の悪癖は五つある。

 

第一に、米語でいうところのNTN(Not Inverted Here 自分たちの発明ではない)という態度、自分たちが考えたもの以外にはろくなものがないという傲慢さである。

第二に、最も利益のあがる部分だけを相手にするといういいとこ取りである。

第三に、さらに大きな弱みとして、価値についての誤解がある。

顧客は、自分にとって有用なもの、価値あるものを提供してくれるものに対してのみ対価を払う。それ以外のものは価値ではない。

第四に、いいとこ取りや価値についての誤解に関係のあることとして、創造者利益なる錯覚がある。だが、創業者利益こそ、つねに競争相手に対する招待状である。

第五に、すでに地位を確立している企業によく見られ、かつ必ず凋落につながることとして、過剰な機能の追求がある。それは、製品やサービスの最適化ではなく、最大化を求めることである。

 

〇 成功の状況

起業家的柔道がとくに成功する状況が三つある。

第一に、すでに地位を確立しているトップ企業が予期せぬ成功や失敗を取り上げず、見すごしたり、無視したりするときである。ソニーが利用した状況が、まさにこれだった。

 

第二に、ゼロックスがもたらした状況である。

新しい技術が出現し、急成長する。

地位を利用し、市場のいいとこ取りをし、創業者利益を手にする。

 

第三に、市場や産業が急速に構造変化するときである。

起業家的柔道は、つねに市場志向であり市場追随である。ただし、スタートは技術からであってよい。

 

〇 その限界

専門技術によるニッチ市場の地位には厳しい限界もある。

その第一は、焦点が絞られるということである。自らの支配的地位を維持していくには、自らの狭い領域、専門分野だけを見ていかなければならない。

第二は、誰かほかの者に依存しなければならないということである。自動車の電気系統の部品メーカーによって、消費者が彼らの存在さえ知らないことは強みであるとともに弱みでもある。

第三は、最も大きな危険として、ときには専門技術が専門技術でなくなり、一般技術になってしまうことである。

 

〇 その有利性

しかし、そのような限界の枠内では、専門技術による地位はきわめて有利である。急速に成長しつつある技術、産業、市場では、最も有効な戦略である。このような新しい技術、産業、市場においては、専門技術戦略は、機械とリスクの比が最も有利である。

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る