チェンジ・リーダーの条件-23
4章 人事の原理
○ 一流の人事はどこが違うか。
マネジメントは、人事に時間をとられる。そうでなければならない。
人事ほど長く影響し、かつもとに戻すことがむずかしいものはない。
ところが、昇進、異動のいずれかにせよ、実態はまったくお粗末である。
お粗末な仕事ぶりが許されているのは、人事をおいて他にない。
もちろん、そのような状況を我慢する必要はない。
我慢してはならない。
人事に完全無欠はありえないが、限りなく10割に近づけることはできる。
なぜならば、人事こそ、もっともよく知られた分野だからである。
事実、完璧に近い人事を行うトップは多い。
○ 共通する四つの原則
第一に、ある仕事につけた者が成果をあげられなければ、人事を行った自分の間違いである。
自分が間違ったのである。
第二に、兵士には有能な指揮官をもつ権利があるとは、シーザー以前からの金言である。
少なくとも責任感のある者が成果をあげられるようにすることは、マネジメントの責任である。
第三に、あらゆる意思決定のうち、人事ほど重要なものはない。
組織そのものの能力を左右する。したがって、人事は正しく行わなければならない。
第四に、人事には避けなければならないことがある。
○ 踏むべき手順
第一に、仕事の中身をつめなければならない。
職務規定そのものは変えなくてよい。しかし、仕事の中身はは、つねに、そして思いもかけず変わっていくことを知っておかなければならない。
第二に、複数の候補者を検討しなければならない。
仕事には相性がある。
したがって、つねに三人から五人の候補者について検討しなければならない。
第三に、強みを中心に検討しなければならない。
仕事の中身をつめていけば、任命された者が優先して行うべきこと、集中して行うべきことが明らかになる。
重要なことは、何をできないかではない。
強みは何か、その強みはその仕事の中身に合致しているかである。
もちろん弱みは、マイナスである。
それだけで候補者を失格させることがある。
たとえば、技術的な面では優れていても、仕事の中身がチーム編成能力を必要としており、その者にその能力がなければ、失格となる。
成果を生むものは、強みである。
第四に、候補者について知っている者から、彼らの考えを聞かなければならない。
人の評価に際しては、ひとりだけの判断は無効である。
誰でも、何がしかの片寄りや好き嫌いがある。
したがって、何人かの考えを聞かなければならない。
第五に、新しいポストにつけた者に、仕事の中身を理解させなければならない。
新しいポストに就任して三、四か月たったならば、前の仕事ではなく、その新しい仕事が要求するものに焦点を合わせなければならない。
人事を行った者として、行うべきことを行っていないからである。
昇進人事における失敗の最大の原因は、人事を行った者が、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えることを怠り、しかもそのポストについた者にそれを考えさせないことにある。
これは、今日のアメリカ企業に見られる最大の欠陥である。
○ 失敗したらどうするか
間違った人事をされてしまった者は、そのままにしておくことは温情ではない。
意地悪である。もちろん辞めさせる理由はない。
もっとも妥当な解決策は、以前のポスト、あるいはそれに相当するポストに戻すことである。
この方法は、ほとんどうまくいく。
前のポストで立派な業績をあげていた二人の人間が、たて続けに失敗したときには、「後家づくり」のポストと見なければならない。
そのときは、万能の天才を要求してはならない。
ポストそのものをなくすべきである。
普通の有能な人間が成果をあげられない仕事は、誰を配属しても無理である。
三人目も、前の二人と同じように挫折する。
この続きは、次回に。