チェンジ・リーダーの条件-26
○ 新しい現実が見える
実は、ほとんどの人は、すでに見てしまったものしか想像できない。
一般に受け入れられている予測というものは、実は、未来についての予測ではなく、最近起こったことについての報告であることが多い。
したがって、最後に発する問いは、「われわれ自身は、社会と経済、市場と顧客、知識と技術をどう見ているか。それは、いまも有効か」である。
すでに起こった未来を見つけ、その影響を見ることによって、新しい知覚がもたらされる。
新しい現実が見える。まず必要なことは、見えるようにすることである。
できることや、しなければならないことを見つけるのは、むずかしくない。
言いかえるならば、機会とは、遠くにあるものでも、曖昧模糊たるものでもない。しかし、まず新しい事態を認識しなければならない。
いくつかの例から明らかなように、すでに起こった未来を見つけるという方法は、きわめて有効である。
この方法が有効なのは、深く染みついた考え方や、仕事の仕方や習慣に疑問を投げかけ、ひっくり返すからである。
企業の構造とまではいかないにしろ、企業活動のすべてについて、変革のための意思決定を余儀なくさせるからである。
すなわち、今日とは違う企業をつくるための意思決定をもたらすからである。
○ 「ビジョン」を実現する
将来いかなる製品やプロセスが必要になるかを予測しても意味はない。
しかし、製品やプロセスについていかなるビジョンを実現するかを決意し、そのようなビジョンの上に、今日とは違う事業を築くことは可能である。
未来において何かを起こすということは、新しい事業をつくり出すことである。
すなわち、新しい経済、新しい技術、新しい社会についてのビジョンを事業として実現するということである。
大きなビジョンである必要はない。しかし、今日の常識とは違うものでなければならない。
ビジョンは、起業家的なものでなければならない。
事業上の行動を通じて実現すべきものでなければならない。
それは、富を生む機会や能力についてのビジョンである。
したがって、「未来の社会はどのようなものになるべきか」という社会改革家や、革命家や、哲学者の問いからは答えはでてこない。
起業家的なビジョンの基礎となるものは、「経済、市場、知識におけるいかなる変化が、わが社の望む事業を可能とし、最大の経済的効果を可能にするか」との問いである。
起業家的なビジョンは、社会や知識のすべての領域にわたるものではなく、一つの狭い領域についてのものであるという事実にこそ、活力の源泉がある。
こうしたビジョンをもつ者が、経済や社会に関わる他のことについては、間違った考え方をしていることは大いにありうる。
しかし、自らの事業の焦点において正しければ、問題はない。
成功に必要なものは、ある小さな特定の発展だけである。
偉大な起業家的イノベーションは、理論上の仮説を現実の事業に転換することによって、これまで実現されてきた。
起業家的ビジョンが、他の国や他の産業をうまくいっているものを真似するだけのこともある。
この続きは、次回に。