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第23章 「リソース・ベースト・ビューが捉えきれないこと」とは何か

 

前章に続いて、みなさんには「一見不毛にみえるかもしれない、しかし経営学者には重要な「知の

戦い」を、紹介したいと思います。

それは、競争戦略の代表的な理論とされるリソース・ベースト・ビュー(RBV)についてです。

そしてこの話題は、現在の経営学、あるいは社会科学全般の「使い方」を考える上で、重要な示唆を

与えてくれるのです。

 

✔️ リソース・ベースト・ビューとは

 

経営学を少しでもかじったことのある方なら、RBVの名前を聞かれたことがあるかもしれません。

RBVは現ユタ大学のスター経営学者、ジェイ・バーニーなどを中心に、1980年代初頭に打ち立てられた、

有名な経営理論です。米ハーバード大学のマイケル・ポーターが発展させた、いわゆる「ポーターの

戦略論」に次いでよく知られており、MBAの経営戦略論の教科書では間違いなく取り上げられます。

中でも、バーニーが1991年に「ジャーナル・オブ・マネジメント」に発表した理論の論文は、RBVの

金字塔とされており、その引用数は3万5000以上に及びます。

世界で一番読まれている経営学の学術論文かもしれません。

 

しかし実は、経営学者からは「RBVは経営理論としての体をなしていない」という批判も出ているの

です。特に話題を呼んだのが、2001年に米テキサス大学のリチャード・プリムと香港理工大学のジョン・

バトラーが、バーニーと「アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー」(AMR)で対決した論争です。

この論文でプリムとバトラーは、バーニーが1991年に発展した有名なRBVの論文を、複数の角度から

批判しました。

この論争で3人が意見を戦わせた点は複数あるのですが、ここでは、中でも「現代の経営学の使い方」を

考える上で重要な論点を紹介しましょう。

 

✔️ 「価値のあるリソース」は何で決まる?

 

RBVとは企業の経営資源(リソース)に着目する理論です。

企業は製品・サービスを生み出すために、様々なリソースを持っています。

例えば人材や技術がそうですし、ブランドも重要なリソースです。

1991年に発表した論文の中で、バーニーは企業リソースについて以下のような命題をたてました。

 

「命題:企業の経営資源に価値があり、希少な時、その企業は競争優位を獲得できる」

 

ここでいう「競争優位」とは、企業がその業界で「勝てる能力」だと考えてください。

「企業が優れた人材・技術など、価値があってしかも競合他社が持っていないようなリソースを持って

いれば、その業界で勝てる」というわけです。

先には紹介した、有名なポーター理論は、差別化戦略・低価格化戦略など「製品・サービス側」の

議論をしています。いわば「表側」です。

それに対してバーニーは、「裏側」の企業リソースもまた競争優位の源泉なのだ、主張したのです。

さて、この命題についてプリムとバーニーは、「そもそも企業リソースに価値があるかどうかは、

リソース部分だけでは決まらない」という批判を展開しました。これはどういう意味でしょうか。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

ところが先の命題にあるように、バーニーの1991年論文はリソースに議論を限定して、製品・サービ

ス側の話はしていません。

プリムとバトラーはこの点をもって、「RBVは経営理論として不完全である」と批判したのです。

 

✔️ 「部分分析」を重視する近代経営学

 

実はRBVに限らず、経営学ではこのように企業経営の一側面に焦点を定めて分析することが、実に

多いのです。なぜでしょうか。それは、現在の経営学が「社会『科学』であること」を重視している

からだろう、と私は考えています。

第1章でも述べたように、現在欧米を中心に国際標準になりつつある経営学は、経営の実態に潜む「真理

法則」を探求しようとしています。そして、複雑な経営の現実から真理法則を見つけるために、まず

その一部に焦点を定めて、その因果関係を丁寧に解きほぐし、分解しようとします(「還元主義」といい

ます)。

そして、そこから導出された「経営の真理かもしれない」法則を、統計手法などで検証していくのです。

しかし厄介なのは、実際の経営者にとってさらに重要なことは、複数からなるこれらの「部分」たちを

足し合わせ、すり合わせて、最終的に「一つだけの意思決定」をしなければならないことです。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

このように、一つの「部分」戦略の変更は、企業の他の「部分」戦略にも影響します。経営者の皆さんは、

それらすべての「部分」をまとめ上げ、すり合わせて、ギリギリの決断をされているはずです。

そして、このような「複数の『部分』をまとめて一つの大きな決断へと導く」というプロセスにおいて、

現在の経営学は決定的な理論をまだ持っていないのです。

 

 

この続きは、次回に。

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