お問い合せ

リテールマーケティング  ⑩

⑤ 訪日ゲストに対する受入環境の整備

 

インバウンドを対象とする小売店の場合、受入環境を整備する必要がある。

訪日ゲストが商品やサービスの購入にあたってストレスとなる事柄は、

あらかじめ排除しておかなければならない。それは、訪日ゲストの利便性を

向上させるだけでなく、小売店の従業員の負担を軽減する側面もある。

訪日ゲストに対する受入環境の整備が必要なものとして、主に、決済対応、

通信環境の整備、多言語対応などが挙げられる。

 

(1) 決済対応

 

決済手段として、海外でよく用いられているクレジットカードなどでの

決済が可能になるように整備しておく。

特に、中国・韓国・香港・アメリカはキャッシュレス化が進行しており、

キャッシュレス決済への対応が必要不可欠といえる。

 

(2) 通信環境の整備

 

訪日ゲストの多くが旅行中にスマートフォンを利用しており、無料Wi-Fi

などのニーズが高い。日本は諸外国に比べ無料Wi-Fi環境の整備が遅れて

おり、観光庁のアンケートでも、訪日ゲストが感じる「訪日旅行で最も

困ったこと」として「無料公衆無線LAN」が上位にランクインするなど、

彼らにとっては自国で無料Wi-Fiを利用できることが当たり前になっている。

また、モバイルWi-Fiルーター、SIMカードの利用なども増えていること

から、これらの周知・広報および入手場所を拡大し、通信環境の整備を

はかる必要がある。

 

(3) 多言語対応

 

観光庁の「平成29年度 訪日外国人旅行者の受入環境整備における国内の

多言語対応に関するアンケート」によると、訪日ゲストが感じる「多言語

表示・コミュニケーションで困った場所」として、「飲食・小売店」との

回答が最も多くなっている。

訪日ゲストに対して、小売業は接客コミュニケーション、店頭表示、商品

説明の3つの面から多言語対応が必要となる。

 

一、接客コミュニケーション

 

接客コミュニケーションでは、笑顔と簡単な英語、中国語、韓国語での

接客で訪日ゲストを迎え入れ、素敵な買物体験を提供することが求められる。

 

二、店頭表示

 

店頭表示では、来店から購買時において不可欠な情報を多言語やピクト

グラムで表示し、快適な買物環境を提供することが求められる。

 

□ ピクトグラム(英語: pictogram)あるいはピクトグラフ(英語:

 pictograph)とは、

 

一般に「絵文字」「絵単語」などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示す

ために表示される視覚記号(サイン)の1つである。

地と図に明度差のある2色を用いて、表したい概念を単純な図として表現

する技法が用いられる。

 

三、商品説明

 

商品説明では、商品のメーカーが発信する商品情報を訪日ゲストへ提供し、

日本の商品を安心して購入し、安全に利用してもらうことが求められる。

小売業の多言語対応については、全国の小売店対象に永続的に利用できる

指針として、「小売業の多言語対応ガイドライン」が公表されている。

本ガイドラインは、より多くの小売店もしくは小売業者が、より迅速、

かつ、効率的に多言語対応を進めるための手引きとして作成されたもの

であり、小売業の自主的ガイドラインとして、訪日ゲストの不便解消、

満足度向上と小売業の国際的対応力向上、生産性向上のために積極的に

活用するべきである。

 

⑥ 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うインバウンドへの影響

 

日本の外国人誘致(インバウンド)は、「2020年に訪日外国人客数4,000万人」と

いう目標を掲げてこれまで急成長してきた。しかし、新型コロナウイルス

世界的拡大の影響によって、2020年5月の訪日外国人数(推計値)は、前年

同月比99.9%減のわずか1,700人まで落ち込み、単月の訪日外国人数と

しては、JNTOが統計を取り始めた1964年以降、過去最小となった(99.9%の

減少幅は4月に続き2か月連続)。

JNTOは「新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界的に旅行需要が

停滞している状況にあり、感染症の推移とともに今後の市場動向を注視

していく必要がある」としており、今後もしばらくは訪日客数が増加に

転じる見込みは薄いものと思われる。

観光コンテンツの魅力、価格、アクセス(交通ネットワーク)などは旅行先を

選ぶ際の重要な要素となっているが、新型コロナウイルスの後には新たな

基準が加わると思われる。なかでも、「クリーン(清潔)」であることは

不可欠な基準となろう。たとえば、シンガポールでは政府が「SGクリーン

認証」制度を推進している。SGクリーン認証は、消毒衛生管理において

最高レベルのコミットメントを達成していると認められた企業に対して、

シンガポール政府から認定される制度である。

このような制度が各国で導入され、安全と信頼を旅行客にPRすることが

必須となる。

次に、「サスティナビリティ(持続可能性)」が挙げられる。

あまりに多くの外国人観光客が訪れることで、地域住民の生活や文化財、

自然環境に悪影響が出ているため、規制をしながら「持続可能な観光」を

目指す動きがある。たとえば、日本の京都などでもオーバーツーリズム

深刻な問題となっており、同市では富裕層誘致による「量より質」の観光

戦略を打ち出し、改善に向けて対策に乗り出している。

今後は、オーバーツーリズムへの規制と、観光客の密集を避ける対策が

求められることになるであろう。

 

□ オーバーツーリズム

 

特定の観光地において、訪問客の著しい増加などが、地域住民の生活や

自然環境、景観などに対して受忍制度を超える負の影響をもたらしたり、

観光客の満足度を著しく低下させるような状況をいう。

「観光公害」とも呼ばれる。

 

 

この続きは、次回に。

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