リテールマーケティング ㉓
⑦「イートイン」と「グローサラント」でネット通販と差別化
1. 新たな顧客囲い込み策としてのイートイン
(1) イートインの有無が来店動機になっている
有力なスーパーマーケット・チェーンやコンビニエンスストアを中心に、
店内に来店客が自由に飲食や休憩ができるイートインスペースを増強する
動きが広がっており、コーヒーや軽食などを提供し、外食に近いサービスを
提供する店舗も増えてきた。
イートインとは、「飲食店や小売店で買った食品などを店舗内で飲食し、
団らんできるスペースのこと」である。
小売業側としては、顧客が買物の合間にひと息入れたり、知り合いと
おしゃべりしたりする場を提供し、中高年や子供連れの主婦などを囲い
込むねらいがある。また、店内に長く居てもらえれば、それに応じて購入
点数も増えるとみており、イートインスペースを設置するチェーンでは
座り心地を重視したソファや淹れたてのコーヒーを導入するなどの取組
みを強化し、快適な空間になるよう工夫している。
このように、地域商圏においてコンビニエンスストアなどと競争する
スーパーマーケットは、地域住民の憩いの場としてイートインスペースを
機能させることで、新たな来店動機を生み出していきたいと考えている。
一方で、コンビニエンスストア各社も揃ってイートインスペースの設置に
注力する傾向にある。これまでにも一部のコンビニエンスストアでは
イートインスペースを設けていたが、カウンターと椅子、電子レンジ
だけが置いてあるような簡素なものであった。しかし、最近では居心地の
良いソファが置かれ、無料Wi-Fiやパソコン、携帯電話の充電用コンセ
ントが用意されているため、カフェとして利用する顧客も増加している。
コーヒーはコーヒー専門店などと比べて味わいに大きな差はなく、スイ
ーツも各社オリジナルの商品を販売しており、これらをすぐに店内で味
わえることが来店の大きなきっかけとなっている。
(2) イートインスペース設置のメリット
イートインスペース設置のメリットは、次のような点にある。
① 出来立ての商品を提供できる
イートインスペースがあると、顧客に店舗で調理したメニューを温かい
まま提供することができる。
② 商品のさらなる購入につながる
イートインスペースがあれば、「気になったあの商品をすぐに食べたい」と
いう顧客の希望を叶えることができる。
それをきっかけに、その場でさらなる購入に至る可能性もある。
③ 顧客にとってコミュニティの場となり、来店者が増える
イートインスペースは1人で利用する顧客がいる一方で、時間帯や地域に
よっては親子連れや学生などグループでの利用も考えられる。
その場で飲食した後、さらに持ち帰り用に追加で商品を購入することも
期待できる。
④ イートインスペースの設置により坪効率が高まる
ランチタイムにイートインスペースで昼食を済ませていく顧客も少なく
ない。そうした顧客の店内での滞在時間は10分程度と短く、座席の回転
率は決して悪くないといえる。むしろ、イートインが来店のきっかけに
なり、客層の拡大も予測できることから、イートインスペースを有効活
用してさらなる売り上げ増大をはかることができる。
(3) イートインスペース設置における課題
一方で課題もある。イートインスペースは基本的に無料である。
ゆえに、一部で騒がしい顧客に占領されたり、同じ顧客やグループに
長居されたりなど、店舗側が望まない使われ方をされるおそれがある。
また、商業施設内のフードコートは、設置時において保健所に営業許可の
申請をする必要がある。しかし、休憩スペースと変わらないイートイン
には申請の必要はない。それゆえ、たとえば外部からの食品の持ち込みが
常態化し、仮に食中毒などが発生した場合、店舗側の責任問題などが
生じかねない。
さらに、イートイン(店内飲食)とテイクアウト(持ち帰り)で税率が異な
ることへの対応の問題がある。これは2019(令和元)年10月1日からの
消費税増税に伴う軽減税率の導入によるものである。
これにより、イートインスペースがあるスーパーマーケットやコンビニ
エンスストアで弁当などを購入する際、持ち帰りなら8%の軽減税率が
適用されるが、イートインスペースで飲食すれば「外食」の扱いとなり、
10%の消費税が適用される。
そのため、小売店側は、販売時点での適用税率を判断するため、顧客に
「イートインなのか」「テイクアウトなのか」を確認することになる。
この場合、「持ち帰るつもりで8%の消費税を支払ったが、やっぱり店内で
食べていきたい」、あるいは「10%の消費税を支払ったが、混んでいて席に
座れないで持って帰る」といったケースでは、差額をどうするのかという
問題が発生する。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会は、軽減税率の導入に合
わせて、軽減税率に応じた協会統一のポスターを作成した。
コンビニエンスストア各社は、軽減税率対応ポスターを提示することで、
イートインスペースを利用する場合には、10%の税率が適用されることを
ポスターで告知している。
図7-1 (一社)日本フランチャイズチェーン協会が作成した共通ポスター
—省略—-
出所: (一社)日本フランチャイズチェーン
□ 軽減税率
2019年10月1日より消費税率が10%へ引き上げとなったことに伴い、
生活に必須とされる食費や新聞代の一部にかかる消費税を8%に据え
置きする制度。
この続きは、次回に。