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リテールマーケティング  ㉔

2. 店内で新たな「体験」ができるグローサラント

 

(1) グローサラントとは

 

グローサラントは、「グローサリー(食料雑貨、日用品)」と「レストラン」を

組み合わせた造語で、スーパーマーケットの店内にレストランのような

スペースが併設されている施設を意味する。

具体的には、「小売店で購入できる生鮮、日配、グローサリーなどを使い、

レストラン顔負けの料理を店側がその場で調理して提供し、カウンターや

テラス席などで顧客が飲食し、食べた料理の素材を小売店で買うことも

できるサービスのこと」である。

元々、アメリカの高級スーパーマーケットなどで人気を博したサービスの

スタイルであるが、近年、日本でも大手スーパーマーケットなどが同様の

形態を取り入れており、顧客の支持を集めている。

 

(2) グローサラントとイートインの違い

 

イートインが店舗で購入した出来合いの食品を食べられるエリアを意味

するのに対し、グローサラントは作り置きの商品だけでなく、店内の食材を

使ってその場で調理された料理を食べることができる。

このように、イートインとグローサラントでは求められる目的が異なる。

イートインは、消費者が店内で購入した食品などを飲食スペースで食べる

ことを主目的である。

レストランよりも手頃、かつ、手近な場所でゆっくり食事を楽しむだけ

でなく、店内で見つけた気になる食材をお試し感覚で食べてみたり、

新しい調理法を探すために利用してみたりなど、いろいろな用途がある。

 

(3) 日本のグローサラント事例

 

日本におけるグローサラントの走りは、2008(平成20)年に東京・代官山に

オープンした『イータリー』とされる。

イタリア・トリノで生まれた大型グローサラントを、ローソンが東急の

商業施設に招いたものである。

108席のイートイン席で、店舗で販売しているハムやパスタ、パンを使っ

た料理を提供するスタイルが当時話題となった。その後、大手スーパー

マーケットがグローサラントを本格的に導入し始めたのは、2017(平成19)年

後半からである。

イオンは、JR新浦安前のショッピングセンターに食品スーパー『イオン

スタイル新浦安MONA』を出店した。「ここde デリ」というスタイルを

打ち出した店舗で、84席のイートインスペースやバルを併設している。

また、成城石井は、京王線の調布駅に直結したショッピングセンターの

中に同店舗内に、イートインの『SEIJO ISHII STYLE』を出店した。

これは、アメリカで見学したグローサラントを日本向けにローカライズ

したもので、「売場に近いレストラン」をコンセプトの軸として、イー

トインとワインバーの中間を目指したサービスを提供している。

ほかにも、ヤオコーが、イートインスペースを拡大させた「ヤオコー

カフェ」でグローサラントのサービスを提供しており、またJR西日本の

SC開発株式会社によるファッションビル「LUCUA FOOD(ルクア・フー

ド)」は日本最大級のフードホールとしてリニューアルするなどグロー

サラントを導入する小売業は着実に増加している。

 

3. 小売業がイートインとグローサラントに注力する理由

 

今日、アマゾンをはじめとしたネット通販市場の大きな伸長が続いており、

さまざまな業界のネット通販へのシフトが急速に進んでいる。

これに対して、リアルショップ(実店舗)は今後どのように戦っていけば

よいのであろうか。

その1つの解がイートインとグローサラントである。

すなわち、インターネット上では得られにくい、リアルショップにしか

ない価値は、店舗という場における「買物の楽しさ」、「ライブ感の体

験」である。それを打ち出すことで店舗販売の独自性を維持するのである。

また、イートインやグローサラントは店舗における相互作用の場でもある。

その場で交わされる店舗の従業員と顧客との会話や、顧客が家族や友人と

一緒に料理を食べることで、顧客経験価値が創造されていく。

これらは、リアルショップにしかできない差別化戦略といえる。

ライフスタイルが多様化している日本では、“孤食”の問題も目立ちつつ

ある。

新たな食事や会話の場所として気軽に利用できるイートインやグローサ

ラントは、コミュニティの場としても機能するようになると思われる。

 

 

この続きは、次回に。

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