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書籍「すごい物流戦略」 アイリスオーヤマ ③

・世界で大ヒットした「透明プラスチックケース」

 

商品価格についても独自の考え方を持っています。

「価格は隣の商品が決める」というのです。

同じような機能を持った商品であれば、よほど差別化されていない限り、

隣に置かれた商品が安ければ、お客さんの手はそちらに伸びる。

自分たちの商品を売りたいと思えば、安値の商品価格に合わせなければ

ならないということです。ただ、お互いがこれを繰り返していけば、利益を

吐き出すばかりか、赤字覚悟の価格で売らなければならなくなってしまい

ます。こうした価格競争に巻き込まれないためには、どうすればいいか。

それには自分たちで市場を作って、価格決定権を持てばいい—-。

こうした考えのもと、アイリスオーヤマが市場を創造した商品の1つに

透明プラスチックケースがあります。

それまでにも色の入ったプラスチックケースがありましたが、「色が

入っていると、中に入っているモノを見つけにくい」ということ(衣装

ケースとして使ったことのある人にはよくわかると思いますが)から、

透明プラスチックでできた収納ケースを発売したのです。

当時、小売・卸関係者の評価は「売れないだろう」でした。

「収納ケースはモノをしまう入れ物なのだから、外から中身が見えて

しまっては恥ずかしい」、そういった声もあちこちから聞こえていま

した。ところが実際にはどうだったかというと、「大ヒット」でした。

その後、各社が透明プラスチックケースの製造に参入、最盛期には60社

以上が生産していたそうです。

透明プラスチックケースは、今では当たり前のようにどこの家庭でも収納

用具として使っているかと思います。

アイリスオーヤマは、日本市場の競争が激しくなると、プラスチック

ケースの金型を米国に持っていき、米国でも大ヒットさせました。

その後米国でも日本国内と同じような状況になると、今度はヨーロッパへ

金型を持っていって現地で生産し、そこでも人気商品となりました。

「探しモノが見つけにくい」というユーザーの不満を素直に受け止め、

すぐさま商品化した(消費者のニーズがすぐにかたちとなって市場に投入

された)からこそ、透明プラスチックケースという市場が創造され、かつ

世界中で大ヒット商品となったでしょう。

 

・単発の商品にとどまらず、新たな市場やカテゴリーまで作り出す

 

アイリスオーヤマが市場を創造した3つのカテゴリーについて、もう少し

見て見ましょう。

 

1つ目はいまではホームセンターでは主力カテゴリーになっている園芸用

ですが、かつては一部のプロの人が利用するものでした。

それを、一般の生活者でも楽しめるように、商品開発を進めていったのも

同社です。園芸マーケットというのは、初期の自社製品として、プラス

チック製プランターを開発した分野です。

開発にあたっては、当時、社内で「水はけのいいプランターであれば、

カビが生えることもない。そこで育つ植物も気持ちよく成長できるだろう」と

いう意見が出ていたそうです。植物の気持ちになって、製品を考えるという

発想はなかなか出てくるものではありません。

こういう発想が根底にあるからこそ、ホームセンターチャネルを通じて

園芸マーケットを広げることができたのだと思います。

もちろんプラスチック製プランター単品で、一般生活者向けの園芸マー

ケットが確立したわけではありません。アイリスオーヤマでは「育てる

園芸」から「飾る園芸」「見せる園芸」へと商品開発を進化させていきま

した。

ホームセンターでの販売方法にも工夫を凝らしました。

ただ店頭に商品を並べるだけでなく、「実際に一般家庭でもこういう置き

方をするといい」という実践例を展開したのです。

 

2つ目のペット市場についても同じような展開で市場を拡大していきました。

「ペットは家族」というコンセプトを明確にし、「家族なのだから鎖と

首輪はやらない(商品展開しない)」を徹底。

室内用のトイレを開発したのもこのコンセプトに沿ったものです。

 

・LED照明や家電の急成長の裏に、積極的な中途採用戦略あり

 

3つ目のカテゴリーは、アイリスオーヤマが家電大手と国内シェアトップを

争うLED照明です。

「日本で照明といえば東芝」と長く言われ続けてきましたが、今やアイリス

オーヤマが東芝にとって代わっているのです。

ところで少し前までは、クリスマスのイルミネーションは豆電球が主流

でした。しかし時間がたつと、少しずつ豆電球が切れていき、ところどころ

灯りの欠けた、情けないイルミネーションになってしまうものもよく見かけ

たものです。それがある時期から豆電球からLEDライトに変わり、心を

ほっこりさせるやさしいイルミネーションがいつまでも姿をとどめるように

なりました。実はこれを仕掛けていたのがアイリスオーヤマです。

その後のLED照明の改良、ラインアップの拡大が繰り返され、現在に

いたっています。アイリスオーヤマのLED照明は、一般財団法人省エネ

ルギーセンターが主催し、省エネルギーを推進している製品に与えられる

「省エネ大賞」を平成29年度(2017年度)にも受賞。

3年連続4度目の受賞になるそうです。

アイリスオーヤマがLED照明をはじめ、今や同社の中核事業となっている

家電事業に本格的に参入したのは2009年のことです。

先述したように、現在、同社の年間新製品開発点数は1000点にものぼり

ます。プレゼン会議での迅速な意思決定がそれを可能にしているのですが、

優秀な中途人材の積極的な採用がその開発の中身(質)を高めているのも

間違いないでしょう。

 

 

 

この続きは、次回に。

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