書籍「すごい物流戦略」 アイリスオーヤマ ⑤
・ 物流に対する考え方・取り組みも独特
メーカー機能と問屋機能を併せ持つアイリスオーヤマ。
同社の物流に対する考え方には独特のものがいくつかあります。
まず、配送費についてです。一般には販管費として全体で管理されて
いますが、同社では管理会計上、製造原価扱いにしています。
どの商品に配送費がどのくらいかかっているのかが明らかになるように
なっているのです。
こうすると現場でどういうことが起こるかというと、実際に小売店から
受注のあった量以外には極力、製品在庫を持たなくなります。
余分に倉庫在庫を作ってしまうと、売上げは計上されないのに、原価だけが
計上されることになり、管理会計的には利益を押し下げることになって
しまうからです。
次に、工場は物流立地・物流設備投資を優先して立地を考えています。
「物流センター内に工場を作る」という発想で、1物流センターの届け先を
100〜300Km圏内で設定し、配送エリアが重複しないように工場を設置
しています。
「売れるものをスピーディーに作り、いち早く小売店に届ける」ことが
徹底されており、その結果、「在庫を極力持たない」状況が生まれるように
なっています。
物流機器については、リースも保守契約もしていません。
物流に関わるコストのブラックボックス化をなくし、効率よくコントロール
するためです。社内でできることはすべて自分たちで対応するという自前
主義が浸透しており、自動倉庫のWCS(倉庫コントロールシステム)も社内の
エンジニアが担当して開発しました。機器のメンテナンスも自分たちで
対応するのが当たり前になっています。
余談ですが、物流センターにある作業台なども、ホームセンターの商材を
利用して自前で作ったことがひと目でわかるものを使用しているようです。
同社は日本国内に9ヵ所の物流センターを設置しています。
それぞれ港やインターチェンジといった交通の要衝近くに立地しており、
100〜300Km圏内の当日配送が可能で、9ヵ所の物流センターを活用
すれば、日本のほぼ全域に当日配送することができます。
・工場稼働率はあえて6割程度に抑え、急な増産ニーズにも対応
アイリスオーヤマの工場の稼働率に対する考え方もユニークです。
100%稼働させることはなく、稼働率65%程度、常時3割以上の余裕を
もたせておくのが基本です。
同社では売り上げ予測は5割程度までぶれることがあると想定しています。
それでも稼働率65%で運用していれば、仮に上限まで上振れしたとしても、
65%×1.5=97.5%におさまり、生産設備の追加投資をすることもなく増産への
対応が容易にできます。
また、製造ラインに余裕があれば、突発的な需要増が生まれたときにも
追加投資をすることなく、特需に対応することが可能です。
もし稼働率65%を維持できなくなった場合には、追加投資を行ない新たな
生産設備の構築を図ることになります。
在庫については、仕掛かり在庫および原材料在庫を持つことはありますが、
完成品在庫を極力持たないというのが基本的な考え方です。
次の章のZARAとこのアイリスオーヤマは、業種は違いますが、共通項が
あります。
ファストファツションの世界的ブランドのZARAでは、初期段階では当初
計画の4分の1しか生産しないと言われています。
同社もアイリスオーヤマ同様、販売予測がはずれて在庫をかかえることに
なった場合のコストがいかにムダなものかを理解しているのでしょう。
また生産スピードに対するこだわりも共通しています。
その理由は、両社とも創業後の経営危機のきっかけが同じだからだと
思います。両社とも売り手からの大量返品に苦しめられました。
では次章でZARAについて語りましょう。
この続きは、次回に。