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書籍「すごい物流戦略」オムニチャネルと物流戦略⑥

● アメリカの大手小売企業は「ストアピックアップ」を相次いで強化

 

次に受け取り方法に注目してみましよう。

 

まず、リアル店舗を展開する企業の場合、店舗在庫をEC注文の受け取りに

活用する方法があります。アメリカでは「ストアピックアップ(Store Pick

Up)」、欧州では「クリック&コレクト(Click&Collect)」と呼んでいますが、

各地に展開している店舗に物流センターとしての機能を持たせ、一元管理

されている店舗在庫からEC注文に対応するというものです。

欧米では日本ほど宅配便への信頼度が高くないため、ECで注文した商品の

店頭受け取りは早くから発達していました。

 

世界最大の小売企業、ウォルマートでは全米5000店舗のネットワークを

生かし、ストアピックアップに力を入れています。

EC注文品の当日受け取り、送料無料サービス「Pick Up Today」を実際に

試してみたところ、本来は4時間以内の受け取りとされているようですが、

約1時間で注文品を受け取ることができました。昔は店内の一番奥に商品の

受け取り場所がありましたが、最近見たときには、店内に入ってすぐの

ところに、「Pick Up here」という大きな店内案内が掲げられていました。

店内に入ると、「アプリを使ってみて」「オンライン注文を試してみて」と

いうEC活用を勧める掲示がいたるところにあり、オムニチャネルへの

対応を積極的に発信しています。

また、冷凍・冷蔵にも対応する24時間受け取り可能な専用の施設を設けたり、

「Pick Up Discount」として「店舗受け取りの場合はさらに値引きをします」

というアマゾンには真似のできないサービスも提供しています。

 

「buy online pickup in store」として、いち早くEC注文品の店舗受け取り

サービスをスタートしていたのが、オムニチャネルの先駆けとして有名な

老舗百貨店のメイシーズです。導入当初にこのサービスを利用してみた

ことがあるのですが、いざ店舗に行ってみると、店舗スタッフに確認しても

肝心の受け取り場所がわからず、結局、スーパーバイザーらしき人が出て

きてようやく受け取り場所にたどり着けたというありさまで、メイシーズの

店内を30分くらいうろうろしてしまいました。

そのときは、まだオムニチャネルの考えが売場にまで浸透していなかった

のですが、数年後にシリコンバレー近くの店舗を訪れた際には駐車場での

荷物の受け取りに対応するなど、かなり進化していました。

 

店舗ピックアップによる成功事例としてよく知られているのが、ディス

カウントストア大手のターゲットです。

2014年のクリスマスをまえにストアピックアップをスタートさせましたが、

アマゾンで注文した場合、商品の受け取りに2日から3日かかるところ、

ターゲットでは注文翌日には受け取ることができるということもあって、

前年売上げから4割アップになりました。

 

大手GMSチェーンのシアーズでは、店頭受け取り専用ロッカーを設置して

いるほか、「イン・ビーグル・ピックアップ」というサービスも提供して

います。「5分以内に車までお届けできなければ5ドル分のクーポンを渡す」

という仕組みになっていますが、専用スペースには、これまでのお客さんの

商品お届けまでの所要時間が表示されており、いずれのケースでも、「5分

以内」を実現していました。

それだけ、店舗スタッフも時間を意識しながらサービスに対応している

ことがわかります。

 

● 専門店は「店舗受け取り+高度な接客」で差別化

 

一方、専門店でのストアピックアップは、単に利便性を提供するだけでは

ありません。

 

全米最大の楽器販売チェーン「ギターセンター」は、店内の随所に

「New Buy Online(この商品は今この場所からオンラインで買えます)」、

「Check in Store Inventory Online(ネットで店内に在庫があるか確認して

みてください)」というプレートが掲げられているように、オムニチャネル

対応に自信を持っています。

また、専門知識の豊富な店舗スタッフがそろっていることでも定評があり、

全員が楽器愛好家で楽器を演奏する技術もあります。

初心者のお客様でもフレンドリーにアドバイスできる高度な接客技術も

備えており、接客というソフト面からも、ネット通販とリアル店舗の相乗

効果をもたらすオムニチャネルを下支えしています。

 

日本でも、ギターセンター同様、専門知識に基づくアドバイスを強みに、

店舗受け取り実績を伸長させているところがあります。

カメラ販売・DPE (写真の現像・焼きつけ・引き伸ばし)大手チェーン

「カメラのキタムラ」を展開する「キタムラ」です。

ネット通販「キタムラネット」の売上高が全体の約3割を占めているの

ですが、ネット通販利用者の70%以上が送料無料の店頭受け取りを選択

しています。

店頭受け取りをするお客さんは、知識豊富な店舗スタッフに購入した

カメラの操作法を教えてもらいながら、店頭でスタッフが操作するタブ

レットでアクセサリーなどの追加購入をすることも多いそうです。

カメラを買って「いい写真を撮りたい」「もっと上手になりたい」と

思っている熱心なカメラ愛好家たちに、接客を武器に店頭販売とネット

通販につなげているのです。

 

店舗に代わって、EC商品の受け取り場所を店舗近くに提供するサービスも

あります。

サンフランシスコを拠点に展開するスタートアップ企業のカーブサイドです。

2018年6月に、楽天が買収することが発表されました。スマホアプリ

「カーブサイド」を利用店舗の前に設置されたカーブサイドのテントで、

1時間以内に商品を受け取ることができます。

現在、受け取り可能な施設は全米で4000ヵ所にのぼるそうです。

 

 

 

この続きは、次回に。

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