書籍「すごい物流戦略」オムニチャネルと物流戦略⑧
● 販売をせず、在庫も持たない「ショールーミング型店舗」
これまでリアル店舗は「商品を販売する場所」であることが当たり前でした。
しかし、店頭販売を目的とせず、商品の実体験を通じた販売促進や商品の受け
渡し、ブランド戦略などに特化したリアル店舗も増えています。
EC発のオムニチャネルへの動きとして注目されているのが、在庫を置かない
店舗の活用です。店舗で実物にふれたり、体験したりすることはできますが、
商品そのものは後日、宅配便で受け取るという仕組みです。
あくまでもネット通販からの購入が主軸であり、リアル店舗には商品在庫が
ありません。在庫のためにスペースを割く必要もなく、店舗運営コストを
抑えることもできます。
その代表的な成功例を見ていきましょう。
2010年、アメリカで開設したメガネ通販サイト「ワービーパーカー」は、
廉価ながらデザイン性の高いメガネを自社生産し、成長してきました。
企業価値が10億ドル(約1000億円)以上の未上場ベンチャーを「ユニコーン」と
言いますが、ワービーパーカーもその1社に数えられている人気のメガネ
ブランドです。
同社はネット通販からスタートしましたが、2013年にはニューヨークに
リアル店舗をオープンしました。しかし、その店舗は店頭販売を目的と
するものではなく、「ショールーム」という位置づけで、主力はあくまでも
ネット通販です。店頭で商品を触って使い心地などを試してからネット
通販で購入する「ショールーミング」の自社完結版という試みです。
現在、アメリカとカナダに、約60店舗を展開していきます。
2017年にウォルマートが買収したことでも知られる、男性向けアパレル
通販「ボノボス」も、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコなどに
リアル店舗「ボノボスガイドショップ」を展開しています。
ガイドショップという名前からも想像がつくように、〝試着専門店〟です。
「試着したら買わなければいけない」というプレッシャーを感じること
なく、思う存分に試着をすることができ、人気を集めています。
これまでのアパレル店舗では、ある程度の余剰を見込み、店頭には相当量の
在庫を持っていました。しかしボノボスの場合は、店頭在庫が少なくて済み、
店舗スペースを顧客の体験のための空間として活用することができます。
その結果、コストを抑えた店舗運営ができ、好立地への出店も可能になり
ます。現にニューヨークに5店舗、シカゴに4店舗を出店するなど、全米で
50店舗以上を展開しています。
日本国内でも、PBを軸にした試着専門店を展開し、ネットとリアルの融合
効果を高めているところがあります。
首都圏を中心にファッションビルなどの商業施設を展開する丸井グループです。
同社では2017年2月、丸井錦糸町店に常設の体験ストアとして「ラクチン
きれいシューズFitStudio(フィットスタジオ)」を開設しました。
「すべての人に、『ぴったり』が見つかる新しい靴のお店」ということで、
19.5cmから27.0cmの全サイズのサンプルが用意してあります。
お客さんはスタッフを気にすることなく全サイズを自由に試し履きする
ことができ、専用のタブレット端末から注文することもできます。
購入商品は最短2日で無料配送されます。
現在、丸井錦糸町店のほかに1店舗(イオンモール木曽川内)を出店して
います。
この続きは、次回に。