書籍「すごい物流戦略」オムニチャネルと物流戦略⑩
● ネットスーパー事業で勝つためのポイントとは?
日本国内でも、2018年、ネット企業とリアル店舗との本格的な協業が
動き出しました。楽天と西友(ウォルマート)、ソフトバンク・ヤフー
陣営とイオンとの提携です。
2017年は、4月にアマゾンのネットスーパー「アマゾンフレッシュ」が
サービスを開始、11月にはイトーヨーカ堂がアスクルのロハコに出店する
「IYフレッシュ」をスタートしました。これまでにもネットスーパー事業は
個々のスーパー単位で各社がそれぞれ行なっていましたが、事業の採算と
いう点ではいずれも厳しいことが伝わっていました。
そうした事業環境の中での、ネット事業者、リアル店舗、さらには物流
機能との協業ということですから、各陣営が本気でネットスーパー事業に
取り組むという意志表明かもしれません。
私はネットスーパー事業で勝つためには「取り扱いアイテム数がキー
ポイント」になると考えています。
取り扱いアイテム数が多ければ、対象エリア内での注文総数はその分
多くなります。
アイテム数の差がそのまま注文総数の差にはなりませんが、アイテム数で
10倍違えば、注文数は2倍位にはなります。
同じ配送エリアで考えたときには、注文数が多ければ多いほど、配送効率も
高まりますから、それだけ採算ベースに乗りやすくなるわけです。
アマゾンフレッシュがサービスをスタートした際、当時のイトーヨーカ堂
ネットスーパーとの比較をしましたが、アイテム数が圧倒的に多いアマ
ゾンフレッシュに軍配を上げたのは、そうした理由からです。
● 「ちょっとしたことでも面倒」と感じる消費者は、今後ますます増える
最近では、東京都内で一般の人が商品を宅配する、フードデリバリー
サービスの「ウーバーイーツ」をよく見かけるようになりました。
これは、アメリカをはじめ、オーストラリアやカナダなどではすでに
ポピュラーになっているフードデリバリーサービスで、自宅やオフィスの
近くにあるレストランの料理を届けてくれます。
少し前までは自転車による宅配が中心でしたが、近ごろは専用のバイクで
宅配をするウーバーイーツも見かけるようになりました。
「忙しいから届けてほしい」「わざわざ出かけるのが面倒」、そうした
声が大きくなっているからでしょう。
この傾向は、ミレニアム世代(1980年代半ばから2003年の間に生まれた
世代)を中心にアメリカで年々、エスカレートしています。
フードデリバリーに対するニーズの高まりを示すデータがいくつかあり
ます。まず「レストランで調理される料理のうち、デリバリーされる
比率は15%」。このデータが示しているのは、デリバリーに対応しないと、
売上げが落ちたら食材の仕入れにも影響が出てきますから、デリバリーに
対応する方法を考えるしかないでしょう。
次に、「食卓の食事のうち、家で調理された料理の比率は60%未満」。
夫婦共働きの世帯が増え、お互いに時間がないなかでは、調理する時間も
体力も限られるということなのでしょうか。
レストランの料理のデリバリー、デリカテッセンやミールキットの通販が
増えているのは、そうしたニーズへの対応にほかなりません。
そして「シリアルは面倒と考える人が40%」。シリアルといえば、お皿に
あけ、牛乳をかけるだけで、簡単に1食分の栄養を摂れる便利な食品ですが、
お皿を洗うことさえ面倒だと思う人がこれだけいるというのは驚きです。
最後にご紹介するデータは「コーヒー豆の売上げ規模の推移」です。
「Ground(挽いたコーヒー豆)」と「Whole bean(挽いていないコーヒー
豆)」の市場規模を見てみると、Whole beanがこの十数年、ほとんど変化
していないのに対し、Groundは同じ期間内に3倍以上に増えています。
アメリカ人はコーヒーの味にこだわる人が多いと言われていましたが、
「コーヒーを挽くことさえ面倒—–」、
そう考えるアメリカ人が増えているということなのでしょう。
これらのデータは「ちょっとしたことでも面倒と考えるアメリカ人が
増えている」ことを示しているわけですが、見方を少し変えると、「そう
した人たちのニーズに応えるサービスがどんどん生まれている」という
考え方もできます。
いったん手に入れてしまった便利さからは、簡単に抜け出ることはでき
ません。インターネット革命とIoT革命とがもたらしてくれたスーパー
コンビニエンスへのニーズは今後も尽きることはないでしょう。
そうだとすれば、オムニチャネル対応は今以上に必要とされるようになる。
このことだけは間違いありません。
リアル店舗を持つ企業がオムニチャネルを進めるだけでなく、ネット通販も
リアル店舗を持つことで、オムニチャネルを進めていくことになります
から、いつでもどこでも注文でき、いつでもどこでも受け取れる買い物
体験が増えています。なので、わざわざ店舗まで歩いて、商品を購入する
ことは減っていくことでしょう。
この続きは、次回に。