書籍「すごい物流戦略」【コラム】①
【コラム】
■ 「これからの都市物流問題」
今以上に、「物流」というものが脚光を浴びているときはありません。
しかし私は、物流が注目されている今の状態こそが本来あるべき状態で
あり、もっと注目されて当然だと思っています。
かつてビジネス界でこのように物流に注目が集まったのは、私が知る限り
では、昭和40年代に「物流」という言葉ができたときと、1990年代に
「サプライチェーンマネジメント」が経営者に注目されたときです。
一方、世の中で広く物流に対する関心が高まったのは、2011年の東日本
大震災で関東を含めた東日本で店頭の棚から商品が消えたときと、2017年の
「ヤマトショック」「宅配クライシス」が発生したときでしょう。
多くの人たちが「物流は縁の下の力持ちであり、生活に不可欠だ」という
ことを実感したはずです。
このように危機になり、生活に支障が出てくるようになってようやく注目
されるのが物流の実状ですが、本欄は普段からロジスティクスというものが
もっと注目されるべきだと思います。
自分の生活に支障が出て初めて物流に注目するのでなく、普段の生活から
物流の大切さを感じてほしいなと思います。
これは企業も同じです。配送運賃の値上げなどで自社に影響が出てから
アタフタするのではなく、普段から物流のありがたさを感じて、より
真剣に考えてほしいのです。
1996年に初めてネット通販セミナーを行って以来、私はネット通販を
する人には、「ヤマト運輸さんの宅急便があるから、商売ができている
ことを忘れないでくださいね」と話し続けてきました。
物流に関して、今のうちから考えておかないといけないことがたくさん
あります。というのも、これまでの物流ではこの先の物流需要に対して
供給力が足りなくなり、年々、物流に関する悩みが増えていくに違いない
からです。
● 建築問題
アメリカに行くたびに、アメリカは物流のことをよく考えているなと
思います。
なぜなら、オフィスビルでは正面玄関入口以外に物流トラックが入れる
道路があり、ショッピングセンターや郊外型店舗では巨大なトレーラーが
着けられるパース(高さのあるプラットフォーム)があるからです。
アメリカに行く機会があれば、商業施設(ショッピングセンターやオフィス
ビル)の裏をよく見てください。物流に関して深く考えられていることが
よく理解できます。
一方で、日本で店舗チェーンの物流コンサルティングを行なう際に必ず
出てくるのが、「あの百貨店は背の低いトラックを使わないといけない」
とか、「あの駅ビルには、トラックは近づけないので、台車で100m持って
いかないといけない」といった言葉です。
郊外型の店舗でも、パースが付いていない施設がよくあります。
2017年3月には、国土交通省が「物流を考慮した建築物の設計・運用に
ついて」という手引書を作成しました。まだ、法整備はされていませんが、
今後、助成金などにもつながっていくのではないかと期待しています。
● 宅配問題
2017年の宅配クライシスで明確になったのは、「宅配ドライバー不足」
です。本書でも記載していますが、好景気と少子高齢化による労働者
不足から、採用が思うようにならず、宅配ドライバーが不足してしまい
ました。
その一方で、「受取人不在」という問題もあります。1人世帯の増加や
共働き世帯の増加により、受け取る人が家に誰もいないという状況が
増えました。さらには、ECの進展による「宅配個数増加」で、マンションに
設置された宅配ボックスが足りなくなるという事態になり、ドライバーが
配達できずに商品を持って帰ることが増えました(「持ち戻り」の増加)。
これらの「宅配ドライバー不足」「受取人不在」「在宅個数増加」「持ち
戻り増加」というのが宅配問題のキーワードです。
ただ、こうした問題は、持ち戻りするような配達はしないことで、大きく
解消します。現在、持ち戻りする宅配は、だいたい3個に1個です。
つまり、30個の荷物を営業所から持ち出すと、そのうちの10個を営業所
まで持ち帰ることになります。
10個分の家にインターフォンを鳴らして待つ時間もバカになりません。
その時間があれば、別のところに配達に行くことができます。
また、チルドなど温度管理が必要な品物の場合、品質に影響があります
からヒヤヒヤです。なので、宅配ドライバーさんに聞くと、「不在が
わかっていれば電話してほしい」と言われます。もし、こうした持ち戻りが
なければ、計算上では現在の配達個数の1.5倍のキャパが生まれるのです。
今はIoTの時代ですから、受取人のスマホに「今から行きますが居ますか?
在宅/不在」とドライバーが問いかけ、「不在(メッセージ「すみません!
居ません」)」
と答えてもらうといったやりとりができるようになるだけで、この問題は
解消に向かいます。
これができるのは、現在、「クロネコメンバーズ」、再配達問題解決アプリ
「ウケトル」の2つのスマホアプリだけですが、まだまだ加入者数が少ない
現実があり、今後の普及を期待したいところです。
このように今後都市物流における問題が大きくなってきます。
体感したときには、すでに遅いので、今から利害関係にある「あなた様」に
もご協力をお願い申し上げます。
この続きは、次回に。